「世界のエコビレッジ」 持続可能性の新しいフロンティア ジョナサン・ドーソン<8>
「世界のエコビレッジ」 持続可能性の新しいフロンティア<8>
ジョナサン・ドーソン/緒方俊雄他 日本経済評論社 2010/09
単行本 145p より抜粋
★★★★★
(エコビレッジの定義は)人類の健全な発展を支え、限りない未来にうまくつながる方法を採用することによって、人間の活動が自然界に害を及ぼすことなく溶け込んでいるヒューマンスケールの、生活のための機能が十分に備わった集落である。p12
ここに書いてあることは、ある意味当たり前のことである。どこの村なり町が、人類の不健全な衰退を支え、もう後がないような過去へ引きずり落とそう、というスローガンを標榜するだろうか。
誰もが、人類の健全な発展を支え、限りない未来にうまくつながるような方法を採っているものと、信じている。だが、そう思い込んでいるだけであり、実際にそうなるかどうかなど分からない。
仮に有効的な「エコビレッジ」の人々が、そういうスローガンを掲げているからと言って、安心はできない。標榜と裏腹に、別の次元に行ってしまう事実を、私たちはたくさん見てきた。
何が本当に、人類の健全な発展なのか。限りない未来なのか。そこのところがキチンと議論され、共有されていかなければ、この議論自体無駄であり、エコビレッジがキチンと「定義」されているとは言い難い。
人間の活動が自然界に害を及ぼすことなく溶け込んでいるヒューマンスケールの、p12
ここだって、何とでも理解できてしまいそうな部分である。おそらく、どの時代、どの地域においても、人間の活動が自然界にまったく害を及ぶすことがなかった、などという暮らしぶりは、なかっただろう。
「害」とはなにか、これまたキチンと定義が必要であろうが、少なくとも、狩猟採取の生活を営もうが、農業を発展させ定住しようが、「自然界」に、すべてよいことばかりをしていく、なんてことはできないだろう。
そしてまた、そんなことが出来るわけがないのに、このような定義を出されると、決して否定できないような妥当性を持っているから困ってしまう。
ヒューマンスケールとはなにか。あるいは何がヒューマンスケールではないのか。熊のスケールとか、クジラのスケールとか、アリのスケールとか、あるのか。
生活のための機能が十分に備わった集落である。p12
生活のため、という時の「生活」とは何か。「機能」とは何か。「十分」とは何か。「備わる」とは何か。「集落」とはなにか。ひとつひとつが、かなり大雑把に投げ出されているだけではないか。
本書は小さい本ながら、なかなか類書を見つけることができない優れた本ではあるが、当ブログがこうして抜き出している部分は、かなり恣意的であり、断片的である。前後をより深く読みこまなければならないが、すくなくとも、これらの歯が浮くような美辞麗句は、書かれた時代や場所、あるいは書き手のありようを推測しながら、より具体的に議論されなければならない。
この本が出されたのは2010/09。ちょうど3・11大震災の半年前だった。原著がでたのは2006年のことであった。しかるに、今私たちがこの本を読む2014年において、仮にエコビレッジを語る人びとが、原発依存度を高めたり、それを推進したり、あるいは無感覚であったりする、なんてことはあり得るだろうか。
(エコビレッジの定義は)人類の健全な発展を支え、限りない未来にうまくつながる方法を採用することによって、人間の活動が自然界に害を及ぼすことなく溶け込んでいるヒューマンスケールの、生活のための機能が十分に備わった集落である。p12
この上の定義を再読する時、原子力発電というものは、人類の健全な発展を支え、限りない未来にうまくつながる方法、と言えるだろうか。あるいは、人間の活動が自然界に害を及ぼすことなく溶け込んでいる、なんてことは言えるだろうか。
「ガイア理論」のジェームス・ラブロックや「ホール・アース・カタログ」のスチュアート・ブランドなどは、3・11以前も、その後も、原発推進論を語っている確信「犯」のようである。その理由はともかく、彼らですら、人間の活動が自然界に害を及ぼすことなく溶け込んでいる、なんてことは言えないだろう。
彼らの大きな論点は、温暖化で地球が壊滅的な破壊を受けるよりは、放射線で汚染される(危険の)ほうがまだリスクは低いという、程度論に過ぎない。彼らは人間の活動が自然界に害を及ぼすことなく溶け込んでいる、ということはもうすでに放棄しているかのようだ。
であるからして、当ブログとしては当然のことながら、エコビレッジとは、反原発、脱原発を標榜する運動体である、と短絡的に考えておくことにする。そして、生活のための機能が十分に備わった集落である。ということなら、その時は、代替エネルギーとしての仕組みを持っているか、その試みに挑んでいる集落、という風に捉えておくことが可能だろう。
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