新装版 「宮沢賢治ハンドブック」天沢退二郎
新装版 「宮沢賢治ハンドブック」(ハンドブック・シリーズ)
天沢 退二郎(編集) 2014/07 新書館 単行本(ソフトカバー): 238ページ
Total No.3347★★★★☆
冬至までの間に、何冊か新刊本を読んでおきたい。そういうちょっとヨコシマな考えから選んできた一冊。ポスト3・11における宮沢賢治は定番である。明治三陸大津波の年に生れ、昭和三陸大津波の年になくなった宮沢賢治。だが、その作品の中には、直接、その津波に触れることはなかったという。
宮沢賢治については、当ブログにおいてもすでに何十冊か触れてきた。3・11後においては、実にハマリ役であると思えたり、思わなかったり。しかるに、賢治は決して得手ではない。そして賢治はおいしいが、毒がないわけではない。フグは喰いたし、毒は怖し。
すでに前前世紀に生れた人を元にして、今日的課題の解決策にあたろうというところに、やや無理がある。電信柱の行進に文明開化を感じたり、銀河鉄道に夢を馳せるのもいいが、いまやスマートグリッド問題で、電柱はある種の滑稽な象徴にさえなっている。鉄道だって、銀河を走っている分にはいいが、地下を掘りまくって、リニアモーターを走らせる時代になるとは、賢治さまでも、ご存じなかっただろう。
当ブログにおいては、複数多数の著者が思い思いに書き連ねたオムニバス本は、三文安い。首尾一貫性がなく、両義性であり、無責任である。問題を提起しておきながら、投げ出したままで、フェードアウトする本が多すぎる。情報の散乱である。
この本も、もとは1996年にでた本であるが、このたび2014年になって新装なった。内容や方向性が大きく改められたわけではなく、内容的も、ちょっと取り組みとしては古いのではないか、と推理する。
日蓮、法華経、田中智学、国柱会、と言ったあたりは、当ブログにとっては、フグの毒にあたる。
一、二行で智学を伝えるとしたら、<なまなかな近代主義者を遥かに超えて近代の特質を掴み近代をフルに、時に逆手に執って利用した反近代主義の人物>と書く方が<国家主義的宗教団体国柱会の創始者云々>などと記述するより彼の本質に迫っていよう。 p115「田中智学」上田哲
田中智学という人がいなかったら、宮沢賢治は存在しなかった、だろうか。
宮沢賢治が国柱会に入信し、以後熱心な法華経信者になったことは周知の事実である。大正9年(1920)12月2日付け保坂嘉内宛の書簡に
今度私は
国柱会信行会に入会致しました。即ち最早私の身命は日蓮聖人の御物です。従って今や私は田中智学先生の御命令の中に丈あるのです。
とあるのが正式の入会を知ることができるものであるが、実際にはこれより数年前から法華経帰依を明確に打ち出している。p146「日蓮」荻原昌好
賢治が法華経に触れたのは、もっと前だった。
宮沢賢治が初めて法華経にふれたのは、大正3年(1914)9月、18歳の時であった。浄土真宗の篤信家であった父政次郎の友人高橋勘太郎から贈られてきた島地大等編になる「漢和対照 妙法蓮華経」(大正3年8月28日明治書院発行)を読んで異常な感動をおぼえたという。この時18歳の少年であった賢治は、法華経のどこに、どのような感動をおぼえたのであろうか。p176「法華経」 鎌田東二
「異常な感動」と言われるかぎり、ここはもう、人智を超えた神秘の繋がりがあったと判断してもおかしくはない。
戦争に行くということは、このように人を殺しにゆくということだ。軍隊はそのためにある。命令は兵卒の掟であり、「泣き叫びながら」それを遂行するしかない。それでもかれは戦争を否定しない。それは個人の意思を超えて起こるもので、かつその戦争に行くのを免れようとするのは、特権に安住することだからだ。
だから賢治は、屠殺場に行ってまで殺戮の残酷に備えようとし、その残酷を「法性」として納得しようとする。p110「戦争」 西谷修
いかに後年、不世出の大天才文学者と言われる賢治であっても、当時の社会情勢の中にある一青年の心情として捉えなければならないだろう。
総花的に30数人の手によるオムニバス本を網羅的に読みこむことは、あまり意味がない。しかし、一般的な賢治作品の中から断片を見つけようとするよりも、このようなハンドブックの中から、恣意的なキーワードを拾い出し、それを切り口として、賢治ワールドに再突入してみることも、意味あることに思う。
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