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2015/01/07

「モバイルハウス」 三万円で家をつくる 坂口恭平

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「モバイルハウス」 三万円で家をつくる
坂口 恭平 2013/08 集英社新書 新書: 192ページ
Total No.3364★★☆☆☆

 著者に対する当ブログの印象はちょっと偏っているかもしれない。そもそもが、誰かさんに、もうひとりのBhaveshがいるようだ、と評価されたことが出発地点である。へ~、どんな人なんだろう、あの人から見て、わたしはこの人と同類項に見えているんだ、というところからのスタートだった。

 正直言って、よくもわるく、この方と私はまったく違っていると思う。当然のことである。しかしながら、共通項というか、似ていなくもない部分も多くある。そこのところがちょっと気になった。

 それで、わたしの行動としては、まずこの人との違いを明確にするところから始まった。違うことのほうが多いのでそれは簡単な作業だったが、それをやりつつ、結局は、著者を「批判的」に見る癖がついてしまった。そして、「違和感」も実は多く残っているのである。

 その最たるものは、彼が自らの「病歴」をオープンにしていることで、私はこのことを「フェア」だとは感じないので、それを契機にこの人の本は読まないことにした。あ~、それなのに正月早々、「現実脱出論」とともに、この本も読んでしまうことになった。

 モバイルハウスをつくろう、というのも面白い。モバイルハウス・ビレッジをつくろう、というのも面白い。しかし、それ以上に気になる何かがある。

 2万6千円でモバイルハウスを作ったとして、一月の使用料が2万3千円の駐車場に運ぶ、というのが、どうもいけない。モバイルハウスが移動できるからと言って、東京から熊本までトラックで運ぶという感性が私には分からない。

 都市に寄生する形で生存するモバイルハウスなら、別段にそれほどの革新性はないのではないか。いくらゼロ円を標榜しても、それは旗印としてのゼロ円なのであって、実質ゼロ円ではない。虚偽広告、誇大広告なのである。

 100歩譲って、モバイルハウスに、現代文明を「批判」する力があるとしても、だからと言って、この人を登場させる意味はほとんど感じない。

 今、モバイルハウスの中には、三畳間の空間とベッドがあるのみだ。
 これ以外に何が必要なのかを考えてみると、実は何もないことに気付く。
 僕は現在、全ての仕事をパソコンで行なっているので、パソコンさえあればどこでも大体仕事ができるのである。このモバイルハウスはインターネット環境もばっちりであるし、太陽光パネルで自家発電した電気が溜まっているバッテリーにUSBが接続されているので充電もできる。それで後は何もいらない。
 寝たいときはベッドに寝転がる。ベッドは、使わないときには折り畳めるので、邪魔にもならない。
 トイレはどうするか。吉祥寺のときはコンビニを使おうと思っていたが、今回は僕が借りている事務所兼避難所のゼロセンターのトイレを使う。家にトイレが付いていないことは、面倒臭そうに思うかもしれないが、逆に気分転換になったあ。
 つまり、家には実はトイレもいらない。
 共用のトイレが近くにあればなんの問題もない。
 お風呂、これも同じである。熊本でもすぐ近くに銭湯があった。
 モバイルハウスにはキッチンもないが、ちょっとしたものならカセットコンロを使い、ちゃんと料理しようと思ったときはゼロセンターのキッチンを利用した。
 結論を言うと、この三畳間の空間で十分だった。もちろん、人は押し入れにいろんなものを入れているし、たくさん興味もあるだろうから、これだけの空間では足りないと感じる人もいるだろう。しかし、人間がただ生活するならば、そしてどのくらいの空間が必要なのかと考えるのならば、僕はこう断言できる。
 三畳間もあれば十分だ、と。
p132「モバイルハウスでの生活」

 この人はこの部分でなにを言おうとしているのだろうか。立って半畳、寝て一畳、とは昔から言われる人間の必要空間のことである。現代でも3畳間に何人家族かが暮らしている実情は山ほどある。

 広さではなく、その空間だけがあれば人間が暮らしていけるとするのは間違いである。インターネットやWiFiを創り出す空間はどこにあるのか。共用トイレは誰が維持しているのか。コンビニは、トイレだけを利用させるために存在しているのか。カセットコンロは、一個転がっていればそれでいいのか。それが作られ、搬送され、供給されるには、三畳間以外のシステムがこの世に存在しなければならないのだ。

 縮こまって狭い空間に押し込まれていればいいというなら、それは棺桶にでも詰まっていればいいわけだ。いい大人が、子供や老人、世の中の人々と一緒に暮らそうとするなら、自らのもとにそれらが供給されるその道筋をキチンと考えなければならない。

 例えば、たしかに自分のモバイルハウスで消費する電力は、小さなソーラーでまかなえるかもしれないが、それらが作られる時の現場の電力をどう考えるのか。極めて、幼稚で、短絡的で、病的でさえある。 

 このような存在を「天才的」と持ち上げる中沢新一あたりは、当ブログから見れば、ますます可笑しな方向に逃走しているという風にしか見えない。

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