「第三の産業革命」経済と労働の変化 角川インターネット講座 (10) 山形浩生監修
「第三の産業革命」経済と労働の変化 角川インターネット講座 (10)
山形 浩生(監修) 2015/02 KADOKAWA/角川学芸出版 単行本: 275ページ
No.3519★★★★★
1)山形浩生を語るに、今さらトマ・ピケティを持ち出す必要もないのだが、売らんがための出版社のご努力も、非難ばかしていてもしかたないだろう。一歩引いて、じゃぁ、ピケティとこの本は関連があるか、と問われれば、私はやっぱりないと思う。
2)レイ・カーツワイルは2005年に出版した著作「The Singularity is Near. When Humans Transcend Biology」の中で、「2020年にコンピューターが人間ひとりの知性に達し、2045年には世界中の人間の能力を合わせたよりも強力な人工知能が出現し、その後の歴史は予測不能になる」と予言した。
人工知能が人間の能力を超える境界点をシンギュラリティ(技術的特異点)と呼び、この著作が発表されるとシンギュラリティ以後の世界に関心が集まるようになった。実際、インターネット上に蓄積された膨大なデータを活用して人工知能の研究は長足の進歩をとげている。p228小長谷一之「インターネットと都市」
3)当ブログがスタートした地点では、シンギュラリティとかシンギュタリアンとかいうカテゴリも立てて、追っかけてみたテーマであったが、これらをこのような簡単なフレーズでまとめることができるのか、と、なかばびっくり。
4)この本において山形浩生は監修者であるが、なんといっても有名なのは「伽藍とバザール」(1999/09)の翻訳者&紹介者としてであろう。この本では、他に十数人が著者や翻訳者として参加している。
5)かつて1980年代末にパソコン通信が使われはじめたころ、職場のある大都市から遠く離れた自然裕なところでログハウスに住み、通信で仕事をする生活を社会実験でやりませんか、とおさそいを受けたことがある。p207小長谷一之同上
6)かつて余命半年宣告の死のベットで読んだアルビン・トフラー「第三の波」 (1980/10)で私受けた印象は、まさにこのような環境だった。もし、そのようなことが可能なら、ぜひ生きつづけてみたい。私の生命力をかきたてたのはそのイメージだった。
7)あれから35年経過して、実際には山中のエコビレッジのコンテナハウスで暮らしながら、仕事もする、というスタイルは、ほぼ可能になった。なにせ高速ネット回線が電波でとどくようになったのだから、かつての夢は現実となった。
8)ここまで極端ではなくても、町のはずれの自宅のSOHOにおいて、日常的な仕事を普通にこなし、家族に囲まれ、市民農園で有機無農薬野菜づくりを楽しむというライフスタイルは、ごくごく当たり前の風景となった。
10)この本においてはスマホ、ビットコイン、ノマド、リナックス、などの概念を広く使いながら、「角川インターネット講座」のなかに、貴重な一角を保持しようとしている。よくまとまっているとは言い難いし、示唆に富んでいるとも評価しにくい。
11)しかしながら、感性がみずみずしい。型にはまった経済論や論陣を張るようなシャチホコ張った姿勢ではなく、自らの体験を織り込みながら、時代をともに生き抜き、さらに未来を見通そうとしている。
12)かくいう私は、かつてはこのようなテーマには、大いに関心を持っていたのだが、還暦も過ぎ、先も見えてくると、なかなかこういう技術論や社会論は、どうも苦手になってきた。目を通すのも苦痛な類書はたくさんある。
13)その中にあっても、この本は、書き手たちに好意を持っているからだろうけれど、そのうち、また再読してみたいな、と思わせてくれる一冊である。
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