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2015/09/08

「せんだい歴史の窓」 菅野正道

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「せんだい歴史の窓」
菅野正道(著) 2011/10 河北新報出版センター 単行本: 223ページ
No.3578★★★★★

 この手の本は、地域のエピソードについて横割りに書いてあって、ひとつひとつが面白いテーマであるのだが、全部に対して関心を均等に持つことは難しい。今回は、かつてわが地方に散見された野原の墓場について、近くの中学校図書館の司書(我が家の奥さんです)が、教えてくれた一冊である。

 いささか罰当たりかもしれないが、かつて墓地は、歴史を研究するための重要な情報源の一つであった。旧家の墓所に並ぶ墓石からは、その家の歴史や社会的立場をある程度読みとることが出来た。埋葬者の事跡を刻んだ墓石などは上質の歴史資料と言っても過言ではない。

 村の墓場を歩けば、その地域にどのような名字が分布しているのか一目瞭然であったし、「乱場」(らんば)と称される、道端や畑の一角にたくさんの墓石が立ち並ぶ墓所を目にすることもしばしばであった。p49「墓地の変貌 墓石普及は江戸中期」

 私はこの「乱場」を探していたのである。知人と議論していて、「らんば」について語っていたのだ。らんば、らんば、とあまり言うものだから、知人は「らんばとはどう書くの?」と聞いてきた。いや、私はこれは俗語であり、方言ですらないと思っていた。私の住むエリアの通称、符号のようなものであると思っていたので、そう答えた。

 しかし、気になったので知人と別れたあと、ネットで検索してみたが出て来なかったので、私は自説が正しかろう、と一旦は納得していたのである。そうか「乱場」だったのか。

 そう思うが、どうも私はまだ腑に落ちない。乱場という漢字は、後からの当て字なのではないだろうか。著者である仙台市博物館の室長さんに言挙げするのも失礼とは思うが、ペンディングにさせていただきます。

 さて、今回、この本を手にとって、二つ目の収獲は、次の項目があったことである。今回詳述はしないが、私自身にはかなり深い意味がある文章である。

 農村で目にする門として、冠木門(かぶきもん)がある。二本の太い角材の上部に真っ直ぐな角材の横木を渡した簡素なつくりの門である。門柱の頂上に木口を保護するための小さな屋根を付けることはあるが、門全体を覆う屋根がないことから「坊主門」とも呼ばれ、また横木の形態から「貫門」(ぬきもん)と称されることもある。

 この冠木門は簡素なつくりであることから、一見して粗末な門と見られがちである。実際、武家屋敷や城郭の門の場合、この冠木門は簡略な門、あるいは格が低い門とされることが多い。

 しかし、農村に残る冠木門の場合、どうも様子が違うようだ。冠木門を残す家の歴史を尋ねると、ほとんどが肝入(きもいり)や山守(やまもり)などの村役人、あるいは明治時代に村長を出したような由緒を持っている。

 「こういう門は、近隣では○○と△△ぐらいしか建てられなかった」などという話を聞いたこともあった。また、かつての宿場町では「検断門」などと称して、やはり格式のある家を象徴する門と認識されている例も少なくない。

 こおのように、粗末に見える冠木門は、仙台藩領の農村では、地域の指導者のみが建てることを許される、格式の高いものであったのである。実は、この冠木門は屋根がないために、風雨にさらされ痛みが早く進行する傾向がある。それでも、老朽化あるいは代替わりを契機に、元の門と同じものに作り直すという旧家も少なからず存在する。

 よく見ると、農村に残る冠木門は、ほとんど例外なく扉が付けられていない。実質的には「門」の役割は果たしていないのだが、それでも家の由緒や格式を示すものとして、この門は大事に守られ続けたのである。

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肝入
 仙台藩など東北地方では、名主・庄屋にあたる村役人のことを肝入(肝煎)と称した。また村方三役と称される名主(庄屋)、組頭、百姓代のうち、仙台藩領では組頭は設置されたが、百姓代は置かれなかった。
 p46「旧家の門 格式を示す『冠木門』」

つづく、かも

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