「ネグリ、日本と向き合う」アントニオ・ネグリ他<12>
<11>からつづく
「ネグリ、日本と向き合う」<12>
アントニオ・ネグリ(著), 市田 良彦(著), 伊藤 守(著), 上野 千鶴子(著), 大澤 真幸(著), 4その他 2014/03新書 NHK出版 新書 240ページ 目次
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応答 東アジアの「冷戦」と「熱戦」 姜尚中
当時と比べて現在は比較にならないほど、複雑です。何よりも英国主義の時代は完全に終わり、一極でも、多極でも、無極でもない、<帝国>ちおう、ナショナル、トランス・ナショナル、ノン・ナショナルな、さまざまなアクターの交渉・構成に基づく異種混交的な世界統治のシステムができあがり、日本や韓国だけでなく、中国もまた、その秩序のなかできわめて大きな役割を果たしているからです。p53姜尚中「東アジア情勢と<帝国>の地政学」
この方については、その名前が示すように、「日本」を代表する応答、というにはやや異論はあるが、そのところは今回は問わない。むしろ、純日本にこだわるのではなく、世界に開かれたコモンについて、という応答ならば、適任と言えるだろう。
<帝国>の地政学のなかで、この東アジア地域での米国の覇権(ヘゲモニー)が揺らいでいるように見えないのは、まさしく「熱戦」のマグマが堆積し続けてきたからではないかと思うのです。p56姜 同上
地政学に精通するネグリに対しては、妥当な質問だとは思うが、もっと、マルチチュードひとりひとりに準じて言えば、当ブログなどにおいては、まったく別な(時には正反対な)質問が湧いてくるような気がする。
対話 東アジアのナショナリズムとリージョナリズム アントニオ・ネグリ×姜尚中
姜 わたしがまずお聞きしたいのは、リージョナリズム(地域統合)についてです。ネグリさんはヨーロッパ統合に対して非常に積極的に関与されましたが、地域統合というのは<帝国>の地勢学のなかでは、どのように位置づけられるのでしょうか。
二番目にお聞きしたいのは、東アジアについてです。(中略)
ネグリさんはどうお考えになるのか。やはり東アジアは、他の地域とは異なる歴史的な特殊性というものが存在しているのでしょうか。p58 姜「ヨーロッパ統合とネオリベラリズム」
それに対するネグリの答えは一問一答式の分かりやすいものではないが、地域統合は、結果として、労働形態の変化を生み、<帝国>への道を推進している、と読める。
ネグリ ベルリンの壁崩壊を皆が歓迎しました。これによって冷戦が終わり、東欧の社会主義の観念の腐敗が終わったわけですから。しかし、同時に、このことがヨーロッパ統合においてたいへん重要な帰結をもたらすことになりました。
それは、ネオリベラリズム(新自由主義)がヨーロッパ統合において采配を振るような事態が生まれたことです。(中略)p62 ネグリ 同上
これまで左翼は、組合運動、労働者階級に依拠してきました。しかし、労働者階級の主力が認知的労働に移るという変換が起こったため、それに対応するような政治的変革は起こりにくくなってしまった。
そして、すべての先進資本主義諸国において、プロレタリアートは消滅し、プレカリアート(非正規雇用、失業者を含む不安定[プレカリオ]な雇用状態に置かれた貧困層)という新しい階層が登場したのです。労働法を無視した極端な搾取形態が生まれ、ケインズ主義が想定していた労使関係の均衡は崩れます。(中略)p62 ネグリ 同上
国家と労働者が対峙していた形態は、地域統合によって<帝国>化していくことによって、労働者階級は、組合などを離れた個人化され、極端な搾取形態が推進している、ということになろうか。両極により離れていった、ということになろう。
二番目の質問についてのネグリの答えは次のとおり。
ネグリ 二つ目の質問ですが、東アジア共同体のプロジェクトはたいへん大きな理想であり、今日では非現実的なユートピアと思われるかもしれません。しかし、これはきわめて重要だとわたしは思います。(中略)p63ネグリ「東アジアをおおう冷戦の『亡霊』」
私の印象では、国民国家というのは古い左翼の考え方と結びついているものです。古い右翼でも、保守でもなく、古い左翼に結びついた考え方が国民国家です。(中略)p64 ネグリ 同上
さしずめ、労組に支えられた日本の民主党あたりの国家観というべきか。
では、右---狂信的なナショナリストのことではなく資本家という意味ですが---にとって国民国家とは何か。今日の市場というのは国家単位ではありませんから、資本家にとって国民国家は重要な枠組みではありません。、すべての大企業はグローバルに市場を考えていますから。
さらに現在では、国際機関によって資本家の利益は保護されるようになっています。ですから彼らにとっての国民国家とは、労働者階級が存在していて、その抵抗も闘争も起こりうるちおう点において、ひとつの桎梏(しっこく)になっている。しかし同時に、労働者の階級闘争を抑え込む枠組みにもなっているのです。(中略)p64 ネグリ 同上
極端にいえば、組織化された労働組合などは、逆に<帝国>化しつつある資本にとっては、プラスに作用している、と言う風に読める。
日中韓という三カ国の協力関係をどうつくっていくのか。表面的で脆弱(ぜいじゃく)な政治的協力ではない、長期間での協力関係をどうやってつくっていくのか。国際的な分業体制をどのように組織し、協力関係をつくっていくのか。それが大事なことです。そのとき、日本の反核運動を支えるマルチチュードとしてのネイションは重要な意味をもっていると思います。p65 ネグリ 同上
ネイションとはネグリ流の言葉使いであり、つまり、日本地域というくらいの意味で、反核マルチチュードが存在する日本というエリアは、という位にとらえておけけばいいだろうか。日中韓の、長期間の協力関係とは、マルチチュード的に考えれば、フリーハグとか、合同コンサートのようなもので促進されるように思うのだが。
姜 「原子力国家」についてのネグリさんの考えもお聞きしたい。わたしは、日本はまさに「原子力国家」であり、福島においてそれが大きく破綻(はたん)したのだと考えています。(中略)
つまり原子力の問題というものは、単にエコロジー、エコノミー、あるいはエネルギーの経済性だけで解決されるというものではなく、国家が持っている自己完結型の幻想のようなものが存在するかぎりにおいて、国家主権という近代的なカテゴリーと依然として強く不可分に関わっている、とわたしは思うのです。p67 姜 同上
グローバル化と言われる世界の政治や経済だが、自己完結型の国家観はまだまだ根強い。
ナショナリズムをいかに乗り越えるかというのは、たいへん重要な問題です。ヨーロッパですら新しいナショナリズムが興っているという社会現象があります。そのため、ヨーロッパ統合までどのくらいの時間がかかるかということについては、わたしはどちらかといえば悲観的です。しかし統合は前進していくでしょう。p68 ネグリ 同上
ギリシャの経済的危機や、シリア難民に対するEU各国の対応もまちまちである。簡単に統合することはないだろう。しかし、前進はしていくのだ。
ネグリ 次に「原子力国家」の問題ですが、これは近代的な国家形態のひとつであり、国民国家という古い概念のひとつのヴァリエーションです。p69ネグリ「『原子力国家」と国家主権のゆくえ」
アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の五大国のほか、
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