「ネグリ、日本と向き合う」アントニオ・ネグリ他<14>
<13>からつづく
「ネグリ、日本と向き合う」<14>
アントニオ・ネグリ(著), 市田 良彦(著), 伊藤 守(著), 上野 千鶴子(著), 大澤 真幸(著), その他 2014/03新書 NHK出版 新書 240ページ 目次
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Ⅱ「3・11後の日本」と向き合う (2013/04/06 日本学術会議 大講堂)
この章は、前章の2013/04/12に先立つこと6日前に、日本学術会議で行なわれた講演である。
3・11後の日本におけるマルチチュードと権力 アントニオ・ネグリ(訳 三浦信孝)
このテーマの議論に立ちいるのは、わたしにとってはかなりむずかしい。p78ネグリ「3・11が付きつける問い」
それは当然そうであろう。
東日本大震災は、自然を克服する努力には限界があり、20世紀後半から出現した「原子力国家」は幻想だったことを明らかにしました。原子力の危険は発電所の事故というだけではないのです。ネグリ 「世界が日本のことを考えている」p145 3.11後の文明を問うー17賢人のメッセージ 共同通信社 2012/03
来日前から、ネグリはそうメッセージを伝えていた。
2001年の9・11の恐るべき事件、2008年の金融危機を経て、2011年の日本の破局を経験してしまった。これらの出来事は、わたしたちを文明の完成ではなく、文明の限界の前に立たせたのではないか。p78 ネグリ 「3・11が突きつける問い」
数週間前(2013年3月)に、日本の建築家・伊東豊雄は彼の仕事にふさわしいプリツカー賞(建築のノーベル賞といわれる)を受けた。受賞を知ったとき、わたしはこの講演原稿を書き始めていた。伊東の作品にわたしはすでにつよい印象を受けていた。p79 ネグリ「コモン・グランドという想像力」
伊東は、私がよくいく地元の中央図書館の設計者であり、その建築思想には、一種の畏敬の念を持っていた。3・11の10年前ほどにできた建築物であったが、あの強震にどれだけ耐えたのか、私も強い関心を持っていた。ここでネグリが、多少のリップサービスがあったにせよ、伊東の名前を出したことに、より親近感を感じるものである。
21世紀の初めから待ったを許さないかたちで提起されている問題は、どうやって共同の生のかたちを構築するか、どうやって共同の生のコンシステンシー(堅牢性)を保障するか、どうやって共同の生を貧困と恐怖から守るか、どうやって<コモン>の建築構築にむけて万人の参加を組織しうるか、である。(中略)
2011年に原子力エネルギーに対する、いや「原子力国家」に対する自然の復讐が、過酷なかたちで日本を襲った。
ここには、わたしたちの文明の運命に対する根源的な問いかけがある。いつの日かこのような事態が来ることを誰が想像しえただろう。グローバリゼーションが文化間の協力と、地球を支える安定した技術的構造による新しい世紀を生むという幻想にひたってきた後に、このような危機からどうやって身を守ることができるだろう。
そして、疑問がわたしたちをとらえる。こうした状況から脱出するためのポジティブな方法などはたしてありうるのだろうか。この問いかけを聞くのはつらいことだ。p80ネグリ 同上
<帝国>の前には勇ましく見えるマルチチュード概念ではあるが、大自然の猛威の前には、ただたちつくすのみ、という心境は多くの人々と同じものであろう。
マルチチュードとは「下からの」ラジカル・デモクラシーを構築できる特異性の集合体である。ネットワークによる協同作業、したがって潜在的に共同的な作業をベースに、ゆたかな社会の化旺盛を生み出す特異性の集合体。
この提案にはいささかのユートピアもない。マルチチュードとは産業的近代の危機の後に生まれる生産様式そのものであり、産業的近代がこのモデルを、マルチチュードの出現を先取りしていたのである。
しかも、マルチチュードの観念は単に「構成的」であることはできず、まず初めに「脱構築的」でなければならないことを、ハートと私は忘れてはいなかった。(中略)p83ネグリ 「マルチチュード概念への批判」
批判とまではいかないまでも、そのマルチチュードとやらの概念を、当ブログなりに咀嚼するには、それなりの時間がかかり、いまだに全うに理解しているとは言えない段階である。
政治形態の両義性は今日ますます明らかに、ますます複雑になっているが、個々の特異な生が孤独(ソリチュード)から抜け出し、政治的な共同空間を形づくっているいま、決して克服できないものではない。(中略) p84 ネグリ 同上
このあたりの定義づけは、ある意味指摘表現も多用されているので、複数の文脈から、デリケートに読みこんでいく必要を感じる。
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