「ネグリ、日本と向き合う」アントニオ・ネグリ他<17>
<16>からつづく
「ネグリ、日本と向き合う」<17>
アントニオ・ネグリ(著), 市田 良彦(著), 伊藤 守(著), 上野 千鶴子(著), 大澤 真幸(著), その他 2014/03新書 NHK出版 新書 240ページ 目次
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「原子力国家」の本性とはなにか。わたしが「原子力国家」と呼ぶのは、エネルギー政策だけではなく政策全体の基礎を、原子力の活用と、それが意味する重大な社会的リスクのうえに据え、このテクノロジーをを前提として巨大なピラミッドをなす金銭的均衡のうえに据えている国家のことである。p90 ネグリ 「『原子力国家『』とは何か」
<帝国>の一翼を成す原子力国家。その全貌をスケッチする。
この権力は自律性を大幅に失っているにもかかわらず、まだ自律性を維持しているとヒステリックに主張しようとしている。だからこのこの権力はマルチチュードに対して、「下からの」デモクラシーをつくりだしている特異性の全体に対して、政治的再構築の中心的位置をゆずるのを絶対に拒んでいるのだ。p91ネグリ 同上
ネグリは、現在のマルチチュードを4つの人間像の特異性を列挙する。
それらは4つの人間像により具体的に表現される。というのも新たな生政治的統治力は、より強力的でマルチチュード的な未来、すなわちデモクラシー的<コモン>の構築に近づいている個々人の特異性を、この4つの人間像によって管理運営しようとしているからである。
4つの人間像とは、「借金を抱える人間」 「メディアに媒介され人間」 「セキュリティを保障される人間」、そして「代表される人間」である。最近マイケル・ハートとの共著「叛逆」で分析したこれらの人間像は、現在進行中の社会的危機のパラダイムを4つの角度から表現している。ネグリ p92「危機が生みだした『4つの人間像』」
「叛逆」マルチチュードの民主主義宣言 2013/03 NHK出版)にも目を通していたが、私はこの4つの人間像という部分を読み落としていたようである。
まず「借金をかかえる人間」は、賃金が個々の人間の搾取の対価でなくなった後に、金融が社会を支配するようになったことの産物である。
二番目の「メディアに媒介される人間」は、メディア権力が強いる疎外が生みだした人間像である。メディア権力が主体に対して、その頭脳と知識と実践、そして社会的関係に基づいた協力によって価値をつくり出させた後、真理を歪曲し、欺瞞の世界秩序に服従せざるをえなくする、そのときに現れる自己疎外である。
三つ目の「セキュリティを保障される人間」は、「治安の悪さ」におびえる人々のことである。「人間はたがいに敵である」という妄想をふりまく国家に、より多くの統治と保護を求めるようにしむけるため、「治安の悪さ」がたえず生産される。
治安対策の名のもとに人間たちをさらに服従させるために利用される、恒常的な治安の悪さという脅かしと妄想は、まったくばかげている。というのも、いまや生の世界における生産は人間どうし結びつきのパワーに依存するようになり、私有財産ではなく共通の活動に依存するようになっているからだ。
四つ目の「代表される人間」という人間像は、制度構築の偽りの規範に基づいている。この偽りの規範の中で代表制(代議政治)の概念は、もっぱら資本主義権力に奉仕する官僚的かつ象徴的な機能に依存している。この「代表される人間」という人間像こそが、権力の中枢と生(バイオ)資本主義の骨格をつらぬく矛盾の総体を、もっともよく表しているのではないだろうか。
債務と恐怖は、わたしたち一人ひとりの生の内部、特異性の肉体の内部に、もちこまれた災いをしめす、二重の顔であるが、その二つが真理に対するあらゆる関係を、規律と遵守すべきあらゆる理由を奪い去っている。規律の遵守はもはやひとつの知ではなく、愉快な感情でもなく、絶望をともなう悲しい情熱になってしまった。p92 ネグリ 同上
つまり、革命の主体たるマルチチュードは、4つの典型の形で、その力を抑制され、束縛されている、という理解でいいのだろう。
「借金をかかえる人間」。つまり、住宅ローン、奨学金ローン、カード負債、などなどのローンに絡み取られている現代人の姿がある。
「メディアに媒介される人間」。つまりは一次情報に触れることなく、作り出された二次三時以降の情報の海に投げ込まれている姿であるか。
「セキュリティを保障される人間」。守る人は守られるというルールの押し付け。作り出されたリスク、危険。尻尾を捕まえられている。
「代表される人間」。直接民主制が実行されず、常に作られた選択肢の中に埋没していくように仕向けられている。
まずは、このようなイメージで理解するが、はてさて、こんな風な理解でいいかな。
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