「トリウム原子炉の道」 世界の現況と開発秘史 リチャード・マーティン<3>
「トリウム原子炉の道」 世界の現況と開発秘史 <3>
リチャード・マーティン(著), 野島佳子(翻訳) 2013/10 朝日選書 単行本 424ページ
★★☆☆☆
この本を読むきっかけとなったのは、古くて身近な友人と談笑していて、彼は原発関連施設の工事にも携わり、また、決して脱原発派ではない、ということに、驚いたからである。よもやま話のなかで、私の印象に残った彼の論旨はこうだ。
1)人類の電力をまかなうには原発は不可欠だ。
2)人類は、どんな困難も技術的に乗り越えていく。
3)核分裂の原発ではなく、核融合の原発の時代になれば、事故もなく被害もなくなる。
4)日本の現在の原発ではなく、ソ連(ロシア?)型の原発がそれである。
5)いずれ人類は宇宙に飛び出すのだし、それには原発しかエネルギー源はない。
そして、あるキーワードを言って、あとからこれを検索して研究してみたらいいよ、と言い残した。私はメモしたのだが、そのメモをどこかに失ってしまった。
上の論旨からすると、まず彼が言ったのは「トリウム」というキーワードであったと断定して間違いないだろう。さて・・・
1)原発は不可欠だ、という断定は、早急にすぎるだろう。すくなくとも原発に着手していない地域や国も多くあり、また中止し断念した国も多くある。原発以外のエネルギーを模索することは、絶対に必要だと思うし、原発は全廃すべきである、と私は考えている。
2)人類は、解決できる問題は解決してきたが、解決できない問題は解決できないできたと思う。その一つが原発問題だ。そう思う。
3)核融合というキーワードでいえば、それはトリウム原子炉のことであろう。
4)ソ連(ロシア)型と言い習わすのはどうかとは思うが、その歴史から見て、まぁ、そういう意味合いで語りあうことも分かりやすいだろう。
5)私は宇宙に飛び出さなくてもいいと思うし、少数の人間がほぼ無限の宇宙空間を飛行する際には放射線被害も少ないかもしれないが、地上における人類密集地帯で、その運用をこれからもし続けていくことは、おそらく不可能だ、と私は断定する。
さて、この本だが、結局は、途中から駆け足で斜め読みで終わってしまった。
安全でクリーン、実質上無尽蔵であるトリウム原子力の技術が発達すれば、アメリカにとって、中国との貿易不均等を是正するのに役立つかもしれない。
トリウム原子力を用いて、価格を抑えた電力や淡水化処理した水を供給すれば、「アラブの春」以降の中東経済がいまなお直面している困難をいくぶんか取り除けるかもしれない。
関連した雇用を生んで技術革新のうねりを呼び起こし、電力価格を大幅に引き下げることで、権利を奪われる一方のアラブの若者たち何百人に機会を希望を与えながら、経済を持続可能な道すじに戻すことができるかもしれない。
アメリカにとっては、トリウムは党派に偏ったものではなく、共和党でも民主党でも後押しできるエネルギーである。
クリーンで安価な電力が供給されることで、輸入した石油に過度に依存するようなことから脱却できるかもしれない、などなど。p11 「はしがき」
うーん、これはいいなぁ、みんなのエネルギー、ネグリ&ハートのいうところの「コモンウェルネス」にさえ、なるのではないか。
と、最初は期待した。しかし、本書を読む限り、それは小出裕章氏いうところの「全くバカげたことです」の一言で一喝されてしまいそうな内容だった。
私は、上でメモした古い友人との会話の続きとして、それは「全くバカげたこと」だ、と断定はできない。それだけ研究したこともなければ、理解力もない。根拠もなく、古い友人に向かって、吐き捨てるように言うことはできない。すくなくとも、私の夢のなかでは、そういうことがあってほしいかも、という期待はある。
そしてまた、当ブログでとん挫してしまっているジェームス・ラブロックや、スチュアート・ブランドなどの読書も、本当は、「夢」や「希望」を持って再開したいのだ。もちろん、ある意味、私の古い友人とも、同じ方向を見て、明るく語りあいたい。
しかし、この一冊を斜め読みする限り、その余裕は生まれなかった。可能性はある。希望はある。これからだ、という期待は残した。でも、最終的には、小出氏の断言がいちばん説得力がある。
ビル・ゲイツや、インドや、中国、それらのトリウム原子炉に対する希望的態度は、すべて「虚妄」に帰すことになりそうだ。
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