<1>からつづく

「トリウム原子炉の道」 世界の現況と開発秘史 <2>
リチャード・マーティン(著), 野島佳子(翻訳) 2013/10 朝日選書 単行本 424ページ★★★☆☆
まだ50頁ほどしか読んでいないのだが、いわゆるアメリカのハードカバー本のつくりになっており、サイエンスライターによる、ドキュメント風な物語になっている。基本はトリウム原子炉についての期待を表明していくことになるのだろう。類書を探してみるのだが、トリウム礼賛の本(特に日本語)は、今のところ、そう多くはないようだ。
チラチラと「WIRED」誌について触れている部分がある。この雑誌については気になることが多いので、いずれまとめて探ってみようと思う。いずれにせよ、「ホール・アース・カタログ」からの流れを感じる雑誌ではある。
さて、ことはトリウム原子炉ということだ、と分かったので、信頼すべき小出裕章氏は、何かこの点について語っていないかな、と検索してみたら、都合のよいものがあったのでお借りしておきます。。
このインタビューは2012年8月頃の録音と思われる。思えばこちらの本も英語版は3・11後の発行ながら、英文原書は2012年なので、ほとんど同時にトリウム原子炉についての意見があった、ということは記憶しておくべきだ。
この本を読んでいく上で、極めて重要な小出氏の発言だとおもうので、全文お借りします。これらは2012年当時の発言として、他にこれに類する発言や著書はないのだろうか。また、あれから3年以上経過して、なにか周辺で変化とか、なかったのだろうか。この当時のままなのだろうか。
千葉「はい…わかりました。それから次の質問になりますけれども。お…こんなニュースが入ってます。静岡県知事が、トリウム原発という新しい型の原発に関心を示して、どうやら中部電力が研究を始めているという報道があるんですけれども。お…このトリウム原発っていうのは、プルトニウムを作り出すことがなくて、安全性が高いというふうに伝えられてる…報道もあるんですけれども…」
小出「はい。」
千葉「これ、本当ですか?」
小出「全くバカげたことです」
千葉「はい…」
小出「はい。あの…意味がありません。え…もともと、原子力発電というものがこんにちまで来る間には、長い淘汰の歴史があったわけで。その淘汰の過程を経て、軽水炉と呼ばれている、今日本で動いている原子炉が、ようやくにして勝ちのびてきた、のです。え…その軽水炉、すらが、もう経済性もなければ、危険性も大きいし、生み出してしまうゴミの始末もできないと、いうことで、米国も撤退を、1970年代の前半に始めていますし。ヨーロッパも70年代には原子力発電から撤退を始めているのです。もう原子力に夢がないなんてことはもう歴然とわかっていることだと私は思い、ます。」
千葉「…はい」
小出「え…その上で、トリウム原発というのは、今使っている軽水炉よりもはるかにまた技術的なハードルが高い、ものですし。メリットとい、言えるほどのメリットも何1つないと私は言っていいと思います。」
千葉「はああ……。あの…トリウム原発自体は、新しく、できた技術というわけではなくて、」
小出「ありません」
千葉「もう、だいぶ古い」
小出「そうです、もう60年代に何とかやろうとして、研究を始めたのですけれども。こんなものには、モノにならないということでとっくの昔にあきらめられたものなのです。」
千葉「あっ、それをまた、研究し直そうという話なんですか」
小出「そうです。はい。」
千葉「藤田さんいかがですか」
藤田「んー、ちょっとあんまり現実性がなさそうですよね」
小出「はい。まあもっともあのビル・ゲイツという人がですね」
藤田「ええ」
小出「去年だったでしょうか。え…自分の金をはたいてでもやるとかいう旗を上げたりしているわけですけれども」
藤田「はい」
小出「少なくとも、テクニカルな意味で言うならば、これまでの歴史をしっかりと見て欲しいと私は思いますし」
藤田「うーん」
小出「全く実現の見…も、見込みは無いと、私は断言したいと思います」
藤田「なるほど(苦笑)」
千葉「はあ……。あのー、トリウム原発、というものはですね、具体的にはどういったところがやっぱり難しい点として挙げられるんですか」
小出「え…この、自然界にあるもので、核分裂をする性質を持っている物質というのは、ウラン235しか無いのです。」
千葉「はい」
小出「え…それを何とか利用しようとしてここまで来たわけですけれども。それすらが、もうできない、というところに直面しているのですね」
千葉「はい」
小出「で…う…この直面する前に、ウラン235だけではエネルギー資源にならないので。もう核分裂はしない、ウランの238という物質をプルトニウム239にしてなんとかエネルギー資源にしようとして、今日までずうっと格闘して、きました。」
千葉「はい」
小出「原子力を推進したいという人たちですね。で…それで高速増殖炉というようなものを何とか作ろうとしたのですけれども。全て、出来なかったのです」
千葉「はい」
小出「で、トリウムというのは、もともと核分裂しないのです」
千葉「はい」
小出「はい。ですから、え…トリウムそのものを使えるわけではありませんし。トリウム232番という物質なのですが。それをウランの233番というものに変えた上で、それを核分裂させようというのが現在言われているトリウム炉、というものですけれども。もともとウランをプルトニウムにかえてやろうというその計画すらができなかった…し、核分裂するウラン235を利用するということすらが、今、頓挫しようとしているわけであって。」
千葉「ふうむ…」
小出「トリウムなんてものをウラン233に変えてやろうなんていうことは、もともと、遥か先、というか技術的にはもう夢のようなこと、でしか、可能性がありません」
千葉「はあ…、あの、もともと放射性物質じゃないものを放射性物質に変えて発電をしようということなんですか?」
小出「え…もともとウラ…トリウムの232も放射性物質なんですけれども」
千葉「そうですか」
小出「はい。それを、放射性物質であり、なおかつ核分裂をするという性質を持ったウラン233に変えて、エネルギー源にしようという、そういう計画です」
千葉「ふーん。もちろんこれ、あの、放射性廃棄物も出て…」
小出「はい」
千葉「くるし、」
小出「全く同じことになります」
千葉「はあ……。じゃ、本当になにか新しいことをやるとか、あの…画期的なう…その新技術というわけでは、ぜんっぜんないわけですね」
小出「(苦笑)はい。全然ありません。ただまあ原子力をこれまで進めてきてしま、した人たちが、なんとか生き延びるための方便で今言っているだけだと私には見えます」
千葉「あの、このトリウム原発っていうのは、世界のどこかで、例えば、動いていたりとか。そういったことっていうのはないんですか」
小出「1つもありません」
千葉「1つもないんですか!」
小出「はい」
千葉「えー…。あの、実用化に向けてですね、なにか、進めている国が日本の他にあるとかですね、」
小出「え…インドという国がですね、え…皆さんご存知だろうと思いますけれども。インドという国は、ウラン、の資源は殆ど無い、のです」
千葉「はい」
小出「そのかわりトリウムという資源、え…まあ232番という放射性物質である、それが大量に、インドという国内にあるということがわかっていまして。」
千葉「はい」
小出「え…インドが、ウランを使う原子力はダメなので、なんとかトリウムを使いたいということで、研究をしていることは本当です。ただ、今聞いていただいたように、1つとして実用化していません」
千葉「ふぅーーーん。わかりました」
小出「はい」
千葉「小出さんどうもありがとうございます」
小出「はい。ありがとうございました」
<3>につづく
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