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2016/01/04

「トリウム原子炉革命」―古川和男・ヒロシマからの出発 長瀬隆<2>

<1>からつづく

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「トリウム原子炉革命」―古川和男・ヒロシマからの出発<2>
長瀬 隆(著) 2014/8  ゆにっとBOOKS 単行本  238ページ
★★★★☆

 1)この本、年をまたいで読んではいるのだが、まだ40pまでしか進んでいない。その間でも、いきなり好戦的で感情的な文章がむき出しになっている。トリウム原子炉の開発者のひとり古川和男ご本人ではなく、1931年生まれの文科系の長瀬隆という人物が書いている本なので、その根拠はともかく、まぁ、立場としては責任のないことを書いても、なんとか化切れてしまう存在ともいえる。だがしかし・・・・

2)(前略)森中定治は、会長をつとめる日本生物地理学会の本年(編注・2014年4月12日)の年次大会で原発問題の市民シンポジウムを主催、反・原発の論客小出裕章を招いた。

 小出は「トリウムに夢をかけようとする人もいるがそれも誤りである」と述べ、質疑応答では、一切の核分裂によるエネルギー取得に反対した。不勉強も甚だしいのであって、彼は「核分裂技術は20世紀最大の科学成果のひとつであり21世紀の地球救済に必須である」(古川和男)ことを知らず、知ろうとしない。

 誤りはウランを用いたことにあり、トリウムに転換すればよいのである。長瀬 p33「『第三の道』をめぐって」

3)いきなり、こう来たか。長瀬たる御仁はどのような人生を送ってきたのか知らないが、敬愛すべき小出裕章氏の人生を「不勉強も甚だしい」と極論するだけでなく、「知らず、知ろうとしない」とまで言い放ち、切って捨てる。ほへー。

4)さらには、続けて・・・

5)米国内でも1970年代に弾圧されたオークリッジの業績が見直されており、フクシマによって勢いづいた科学ジャーナリストによる本が出版されている。もちろん古川和男の業績への言及もある著書である。p34 長瀬 同上

6)として、リチャード・マーティン「トリウム原子炉の道」( 2013/10 朝日選書)を紹介している。いよいよ情勢は急を告げている。ここで読まれるべきは、次の三冊に搾られてくる。

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7)古川和男「原発安全革命」(2011/05 文藝春秋)は、当ブログとして読み始めたばかりだから、なんとも言えない。ざっと目を通したが、専門家ならざる身ゆえ即断はできない。他の研究者たちがこれをどう読んでいるのか、は気になる。

8)リチャード・マーティン「トリウム原子炉の道」( 2013/10 朝日選書)については、まずは一読したが、瑣末なストーリーがかなり多く、決して読みやすい本ではない。通りがかりの一読者としては、とにかく結論が知りたい。その結論が、さっぱりわからない、「変な」本である。

9)反・脱派は原発ゼロを高唱する過程で、それによるライフスタイルの簡素化、倹約化を想定せざるを得ない。すでに大江健三郎が2012年にパリでそのような発言をしていたし、小出裕章に至っては夏季でもクーラーを使わずに我慢している、とどこかで語っていた。p35 長瀬 同上

10)これは、かなりぶった切りの好きな御仁だなぁ。大筋間違いはないとしても、せめてもうすこし論拠を示して、謙虚に、冷静になれよ、と言いたい。少なくとも長瀬は、世界的に見て大江ほどの影響力はないだろうし、小出氏ほど人生を放射線研究にささげた方ではない。ましてやライフスタイルの簡素化・倹約化は、別段に彼らの発明でもなければ、専売特許でもない。地球はそういう所に来ているのである。

11)またごく最近、私は山本義隆の「フクシマの原発事故をめぐって」(2013年、みすず書房)という小冊子を読んだが、そこでも「一刻もはやく原発依存社から脱却すべきである」と主張され、「生産活動に支障が生ずるとか、これまでの快適な生活が持続できなくなるという反論(恫喝)にたいして、「言い分どおりだとしても、それでも原発はやめなければならないと思っている」と述べられている。p35 長瀬 同上

12)私が読んだ「福島の原発事故をめぐって」   いくつか学び考えたこと(山本義隆 2011/08  みすず書房)は、たしかに101pの小冊子ではあったが、発行は「2011」/08である。2013年ではない。また「山本義隆 フクシマ」で検索してみたが、山本が「フクシマ」と表記した記事は出て来なかった。あるのかないのか、まだ定かではないが、もし、これらが著者長瀬の誤記であるとしたら、ここに限らず、他の部分にもそのような「誤記」があるのかもしれないので、足元を注意して進むことにする。くわばら、くわばら・・・・。

13)フクシマ後に、原発ゼロに反対して「猿の生活に戻るのか」と言い残して死んだ吉本隆明を思い出した。私はともに極端であり、トリウムへの無知が共通している、と見る。p35 長瀬 同上

14)吉本隆明「『反原発』異論」(2015/01論創社)は編集者の副島隆彦が吉本の言葉を集めて一冊にして吉本(著)としたものだが、はてさて、長瀬のいうように「猿の生活に戻るのか」と言い残したのだろうか。当ブログにメモしている限り、この本で吉本はたしかに次のように語っている。

15)「発達してしまった科学を、後戻りさせるという選択はあり得ない。それは、人類をやめろ、というのと同じです。」吉本隆明「『反原発』異論」(2015/01論創社)p114

16)「猿の生活に戻るのか」と「人類をやめろ」という言葉は、いささかニュアンスは違うとおもうのだが、まずは、この長瀬という人物の他者の登場のさせ方に留意しておく必要がある。もっともこの吉本の編集者である副島某も、これまた頓珍漢なことを連発しているので、再記しておく。

17)いずれの爆発(四つの原子炉の爆発)でもメルトダウン(炉心溶融)は起きていない。今の今でも「メルトダウンが起きた」と騒いでいるのは、ものごとの真実を明確に自分の脳(頭)で確認しようとしない愚か者たちである。

 原子力工学の専門家たちの意見を今からでもいいから聞くべきである。私はたくさん聞いた。彼らを”御用学者”と決めつけて総なめに忌避したことの報いが日本国民に帰ってくる。吉本隆明「『反原発』異論」(2015/01論創社)p003 副島隆彦「悲劇の革命家 吉本隆明の最後の闘い」

18)メルトダウンは起きたのであり、研究者も、当事者の東電も認めている。

19)(古川和男は)大江健三郎や山本義隆とはおよそ反対の思想である。両人の思想を文学的な、あるいはまた知識人的な自己満足のそれとは言わないまでも、一般大衆には受け容れがたい思想であると言ってよかろう。実はこのあたりが、フクシマ後に大衆が自民党政権を選んだ理由なのである。p36 長瀬 「『第三の道』をめぐって」

20)いやはや、言いたい放題である。

21)いわんや両人の見解は、日本ではどうにか通じても、世界的規模ではまったく通用しないことは明らかである。世界は多大に貧困層をかかえており、中国やインドはまだまだ多数の原発を必要としており、東南アジアにいたってはいまだに一基も存在せず、日本に頼ろうとしている現実がある。大江や山本や、はたまた小出などは自分たちの生き方を彼らに推奨するつもりか。p37 長瀬 同上

22)もはや、寄らば切るぞの、大立ち回りである。これでもし、トリウム原子炉とやらが役立たずだったら、大笑いである。大笑いどころか、憤死ものである。イタリアやドイツだけでなく、原発ゼロ宣言をしている国は多い。決して世界的規模ではまったく通用しないどころか、世界の潮流はそちらを向いている。

23)米国ではマイクロソフトの創始者ビル・ゲイツがテラパワー社を立ち上げ、2050年までにCO2ゼロを目指すと豪語している。つまり新しい原発の開発に入っているのであり、燃料体が液体であることを明言しており、トリウムであることは確実である。 

 世界はトリウムに向かっており、トリウム原子炉革命は世界的規模で避けがたく、そして必ず起こるのである。p38 長瀬 同上

24)ビル・ゲイツが取り組んでいるから、「必ず起こる」という結論は、願い下げである。PCソフトの「独占」に失敗した御仁が、有り余る私財を投げ打ったからと言って、「必ず起こる」は極論であり、贔屓の贔屓倒しであろう。

25)少なくとも、これほどの極論大好きな著者においても、ビル・ゲイツの「新しい原発」はトリウム原発である、と「断定」できていないことを確認した。ゲイツの開発している「モノ」の情報を、もっと明確に把握する必要がでてきた。

26)それにしても、この本まだ、40pに満たないところで、このザマである。当ブログは、この本を最後まで読みとおすことができるのだろうか。

<3>につづく

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