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2016/02/05

「ふるさとの星 和名歳時記」千田守康

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「ふるさとの星 和名歳時記」
千田守康(著) 2015/12
河北新報出版センター 単行本: 194ページ
No.3646★★★★★

1)贈本である。著者からではなく、そのファンからである。ファンと言っていいのかどうか、私の身近な友人からである。彼は高校時代から天文台に通い、著者に大変お世話になったそうな。その著者が本を出したので、大量に買い込みに友人知人に配っているのだとか。

2)いきなり出された本を読むというのも不思議な体験である。決して自分の読書計画にはなかった本であることが多い。タイトルや著者名だけでは、何が書いてあるのか、自分とどう関係があるのか、実に不明である。

3)読みだして見れば、なるほど、これは面白い。長く天文台のスタッフとして働いた人が、かつて地元の新聞に連載した記事を元に一冊にまとめたものであった。

4)つまり、星の呼び名の本である。星といえば、地域を越え、国を越え、万国共通のモノ、という認識がある。地球を越えた宇宙の話である。コスモポリタンを越えて、はるか宇宙人とのコネクトさえ連想する。

5)しかしながら、この本は、極めて地方色豊かである。地元の人々、とくに農民や漁民にどのように星が呼ばれてきたかを探った本である。呼ばれたか、というだけではなく、その仕事や生活のなかで、どのように星たちが活用されてきたか、を調べ上げているのである。

6)この手の本には、故・野尻抱影の「日本星名辞典」などがあるらしい。断片的ではあるが、私たちは、ギリシャ名や中国名、あるいは日本神話のなかで、星の名前を覚えていることがある。いろいろな呼び方があり、時には、まったく別な星だと思っていたものが、本当は同じ星だったりする。

7)この本は、その星の呼び名について、地元の宮城県に限って調査した本である。完全に調査され、完璧に記載されているとは言い難いのだろうが、著者は、その呼び名を、求めて、山間の村々や、海岸線の漁村を尋ねた歩いた、ということだから、これまたユニークな郷土史である。しかも、それは人々の生活を浮き彫りにするものであり、これまで、どのような人々の暮らしがあったのかを、星の呼び名から掘り起こす。

8)私は地方の第一次産業の中で生れ育った人間だが、山間にも、漁村にも、あまり縁がない。ひたすら平坦な田んぼに囲まれた農村風景が基本である。だから、太陽の動きや月の満ち欠け、あるいは風の動きなどについて人々が話している風景は記憶しているが、星について語っていた風景を記憶していない。

9)しかし、時計のない時代、ましてや方角を探知する機械などが発達する前の人々は、朝や夜、星々の動きを見て、作業を開始し、終了し、あるいは何の手掛かりもない海の上を、星をみつつ移動したのである。魚の動きや、漁の開始時期などを探っていたのだ。

10)大変あこがれる世界であるが、実際には星に関わるような生活を実際にしていない現代人にとっては、このような星の話を聞いても、一時にはなかなか覚えることはできない。なるほど、そういう生活があったのか。それほどまでに人と星は深くかかわっていたのか、と感動するのみである。

11)しかもなお、同じ県内の、ちょっと前までの人々が、このような星々に、自分たちの星の名前をつけて愛し、活用していたことを知ることは、驚きであり、感動である。自分のなかの、地元の人間としての血が騒ぎだすような感じがする。

12)星に関心がある人は当然のこと、郷土に縁のある人、民話や、民俗に関心がある人にも、きっとインスピレーションを与えてくれる一冊である。

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