「古代一木彫像の謎」仏像の樹種から考える―成城学園創立100周年記念シンポジウム報告書 金子啓明他<1>
「古代一木彫像の謎」仏像の樹種から考える―成城学園創立100周年記念シンポジウム報告書<1>
金子 啓明(著), 岩佐 光晴(著), 藤井 智之(著), 能城 修一(著), 安部 久(著) 2015/12 東京美術 単行本: 159ページ
No.3672★★★★★
1)まだ新刊に属する一冊である。この最新の研究から、この結果が導きだされていることに、個人的に実に有用なものを感じる。
2)昨日他書(「日本の美術」 No.242 薬師如来像1986/07 至文堂)に記された記事から、7~8世紀頃の仏像の樹種をメモしておいたばかりだが、ケヤキ、カツラ、サクラ、などを圧倒して、ダントツに多いのが、ヒノキとカヤであることがわかった。
3)ヒノキは現代建築でも上質な樹種とされ、古代より多かったのは当然と思っていたが、やはりカヤも相当に健闘していたのだなぁ、と認識した。
4)しかるにである。この本においては、これまでヒノキと見られていた一木彫の仏像の多くが、実はカヤであったことが判明した、というのである。これは驚きであった。
5)そもそもドシロートの私には、樹種などまったくわからない。ビャクダンとスギくらいにはっきり違うものであれば、それは間違うこともないだろうが、似た樹種であれば、それを判別することなど不可能、それをしようとさえ考えつかない。
6)ところが、どうやら、長年、木を扱っている人々にとっても判別が難しい樹種はあるようだ。ましてや伐採されて加工されたのが1000年以上前、時には塗装され装飾されていたりすれば、なおのこと難しいようだ。
7)仏像の樹種の判別には、当時の文献なども援用されているようだが、そもそもその文献に使われている用語も判然としない部分もあるらしく、止むを得ない要素もあったようだ。
8)今回のこの本においては、樹種全般というよりも、ヒノキなのかカヤなのか、という点に判別方法を絞ったところ、そのかなり部分がカヤであったことが判明した、ということである。
9)ひるがえって考えるに、当ブログとしては、カヤありきの記事が先行しているので、かりにヒノキ説が正しかったとしても、別段にカヤの話題が途切れてしまうわけではないのだが、カヤ説が強化されると、ますます自らが立たされている位置を再確認しなければならなくなる。
10)当該カヤの木はすでに樹齢1300有余年と認定されている。ヒノキは群生して林を形成するが、カヤは単木で生息する。さらには、その生息地域は九州から東北南部まで、ということになっている。このカヤは最北に位置する一本なのである。
11)その間伐材が処分される前に頂戴したとは言え、その命を粗末に扱うことはできない。せめてなんらかの有効利用をしたい、と考えるのは自然である。
12)知識も技術もないボンクラながら、その心ばかりが先走り、なんとかその間伐材の一部で薬師如来立像のまねごとを始めることができたのには、至福の心持して感謝の念に堪えない。
13)この本、今半期新刊本ベスト10入りするのは間違いない。
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