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2016/04/27

「薬師寺再興」 白鳳伽藍に賭けた人々 寺沢 龍

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「薬師寺再興」 白鳳伽藍に賭けた人々 
寺沢 龍(著) 2000/9 草思社単行本 278ページ
No.3684 

1)当ブログ、1300有余年の昔を尋ねる旅の中で出会った本の一冊。この本に辿り着くまで、いろいろな紆余曲折があり、また、類書の中でこそ語られなければならない一冊ではあるが、たった一冊の読書としても、際立った美しさのある良本と言える。

2)昭和から平成にかけての奈良薬師寺にまつわる再興劇を、橋本凝胤、高田好胤という僧侶子弟と、その建築に関わった宮大工・西岡常一棟梁の三人の人生と業績を柱にしたノンフィクションストーリーである。

3)三人のそれぞれの人生を、おのおの一冊の本にしてしまったほうが分かりやすいのであろうが、逆に、この三人を繋いだればこそ、この本一冊の面白味が湧きでてくるというものである。

4)高田好胤については、マスコミへの露出度も突出していたし、その言動については、西岡常一本人も最初は好きでなかったというから、私も、正直、あまり好きでなかった、とここで書いておいていても、おこられはしないだろう。

5)私は高田好胤の講演会に一度参加したことがあると記憶しているのだが、正直あまりはっきりとした記憶がない。ただ、「好胤、父母恩重経を語る」という内容で、そのお経のタイトルに誘われて参加したように覚えているのだ。高田好胤が書いた似たようなタイトルの本を後日求めて読んだように思うので、1976年当時以降であったと思う。

6)「父母恩重経」は、釈迦直伝ではなく、中国で後年作られた「偽経」という評価もあり、私は、若い時分でもあったし、その内容にしっくりと納得していたわけではない。しかしながら、私の祖父がいろいろ仏教を手ほどきしてくれる中で、手渡してくれたお経の一つがこのお経で、「ゆっくり読めよ、ジックリ読めよ」と因果を含めて言い添えていたので、いつまでも忘れることができないのであった。

7)いささか深淵ならざる「偽経」つながりの中で、私は高田好胤という僧侶については、深く入り込んだこともなかったし、あえて接触しようとも思わなかったのだが、今回のこの本の読書を通じて、非常に身近なものを感じるようになった。

8)そもそも、ノンフィクションとは言え、この類の伝記物は、主人公のことが、とやかく美化されて書かれていて、マイナス面にはあまり触れられないものであるが、この本は、プロの作家によるヨイショ記事ではなく、退職後のサラリーマン作家の第一作、という位置にあり、なかなかプラスマイナス面をうまく描きだしていて、信ぴょう性が高い。

9)それにしても、伝統があるにせよないにせよ、伽藍ひとつを整備するということの大変さと、その素晴らしさ、そして人生というステージでそのようなイベントに出会ってしまう人々の、その運命と、心情というものが、かなり読む者に分かりやすく描き出されている。

10)同時代的に言えば、この三者が活躍した60~90年代において、少年から中年時代を過ごした私には、敢えて言うなら、共感域の少ない、「向こう側」の人々の物語が連綿と語られているわけだが、還暦を迎えた今となっては、なるほど~~、と納得して読むことも多かった。

11)法隆寺、法興寺、薬師寺、などなど、藤原京、平城京、各天皇にまつわる話など、まつわる人物や時代へのアクセスポイントも多く、また、この「再興」劇に関わった人々のストーリーにもさまざまな支線があって、なかなかに興味深い。うのみには出来ないが、インサイダーではない著者が、さまざまな印刷物を駆使して描きだした、新しい一つの視点からのノンフィクションには、かなりの説得力があり、読む者に静かな感動を呼び起こす。

12)少なくとも、読書前に私が期待していた内容を、はるかに凌駕していた。

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