「無伴奏」 小池真理子原作 矢崎仁司監督 成海璃子主演
「無伴奏」
小池真理子原作 矢崎仁司監督 成海璃子主演 2016/03 「無伴奏」制作委員会 映画 132分 上映館 フォーラム仙台
No.3681★★★★★
1)石川裕人が亡くなって、その痕跡を求め、仙台文学館を尋ねたことがあった。ここで芝居を上演し、館長である井上ひさしとの対談もしたはずなのに、私が期待していたような情報は得られなかった。
2)その代わりに、仙台ゆかりの名のある文学者として何人かの紹介が展開されていた。昔の人も、超有名な人も、そして現代作家も。その中に小池真理子の名前もあった。この時が、この作家について私が知った最初であり、いままでのところの、唯一の接点だ。
3)市内の県立女子高出身ということと、私とほぼ同年代であり、あの当時、学生運動(らしきもの)に関わっていたらしい、という情報のみあって、それ以上距離をつめるチャンスはこなかった。
4)あの当時、作者が通っていた女子高校からデモに参加などしていた、コケティッシュで、たしかいつもリストカットしているとかいう噂があった、気になる女生徒がいた。ごくごく最近になって、あの女性と「付き合って」いたのは、私の通っていた高校の一年先輩W氏だったらしい、ということがわかった(W氏の最近の述懐による)。
5)ふ~~ん、へ~~ん、というレベルだったのだが、そのW氏の書込みで、この映画「無伴奏」が現在上映中である、ということを知った。この映画にでてくる主人公の三人組の仲間のひとり女生徒(おかっぱのレイコ)がその人らしい。
6)私たちの時代の言葉では制服廃止闘争委員会とは言わなかった。たしか「服装自由化委員会」といったのだったと思う。正式な生徒会の組織となり、私もその一員だった。 市内で最初に自由化が成立したのが70年1月、つづいて私たちの高校も3月から自由化になった。
7)その後、男子校二校が自由化し(全部で四校)、女子高も一校、遅れて自由化した。だが、作者の通っていた女子高では、それほど大きな運動の盛り上がりはなかったと思うし、実際に自由化はされなかった(制服は廃止されなかった)。
8)この映画が作者の「半」自叙伝的小説、と称されるところの所以がこの辺にあるのだろうか。昭和27年生まれの作者は私の一学年上ということになるが、あの時代性の中で、登場人物は多少、年代がごまかされているのかも。主人公は、年代で言えば26年生まれに設定されているようだ。
9) 中央通りの地下にあったクラッシック喫茶「無伴奏」は、私のイメージのままである。たしかにあのような感じだったと思う。あの時代、あの空間にいるだけで、自分は何か別なことをしている、というような、エリート感とアウトサイダー感があった。
10)やっていることと言えば、コーヒーを啜って、デカいスピーカーから流れるクラシック(バロック?)を聞いて、ただスパスパ煙草を吸っているだけなのだが。しかし、それにしても、この映画ではとにかく喫煙シーンが多い。多すぎる。実際、あのくらい当時の高校生も、煙草を吸っていた。
11)私も吸っていた。三島由紀夫が「男は両切りだ」とか言っていたので、フィルターなしの「しんせい」とか「ショートピース」がカッコよかった。「ショートピース」は10本入りだが、「缶ピース」は50本入りだった。私はこれが定番で、缶ピースの缶を積み上げて、自分の部屋に飾っていたのだが、その高さと巾は、だいたい障子一面くらいになっていた。
12)ちょっとイキがった奴はドイツ産の「洋モク」である「ゲルベゾルテ」を吸っていて、私も何度か吸ったが、ちょっと香りがきつかった。
13)おバカなことにパイプまで買って、たしか「モモヤマ」(だったかな)なんていう「キザミたばこ」も吸ったことがあるが、まったく愚かなことだった(爆笑)。いくら制服が廃止され、ジーパンとセーターを着ているとは言え、長髪高校生がパイプを咥えて煙を吐いている風景は、今考えればまったく滑稽だね。
14)街頭で詩集やミニコミを売っている風景も多かった。友人・元木たけし(現舞台監督)が街頭で買ったという「ヴァイブレーション」というミニコミ(札幌ジプシーハウス発行)を極とする。
15)それにしても「無伴奏」とは上手いこと設定したよね。あの頃、いつかあの地下の階段を下っていって、ドアを開けた時、不犯の初恋のKちゃんと視線がバッチリあってしまった、あの時のことを未だに忘れられない。私より二学年下の彼女が「無伴奏」に来るなんて、かなり無理していたと思う。今でもドキドキする。
16)近くの国立大学も出て来るし、べ平連のデモシーンも古いモノクロ動画で再現されている。その他のシーンもあるが、どの地をロケ地にしたのか、まったくわからない。当時の街の風景からは45年も経過して、まったく違ってしまっているわけだから、当時の風景を求めること自体無理なのだが。
17)イントロの部分から前半にかけては、かなり感情移入することができたが、後半からエンディングにかけては、この作家の独創の部分であろう。ネタばれになるので細かくは書かないが、ボーイズラブ的な部分は、この映画の原作小説である「無伴奏」が出版された1990年当時の流行に対応しているのではないか。
18)「半」自伝的小説ということだが、前半部も、アレコレの「嘘」を発見してしまう私ゆえ、後半部分も、全うな作者の「自叙伝」としては当然読めない。私はこういう「嘘」を許せないので、どうしても小説全般を好きになれないのだろうな。
19)スマホアプリで上映館を探したのだが、これだけこの地が語られている作品なのに、上映館は場末の小さな映画館がひとつだけだった。ニューヨークのミュージカルで言えば、オフを通り越して、オフオフブロードウェイという感じのところが一館だけだ。繁華街を通り越して、だいぶ歩いた。私はこんなところに映画館があるなんて知らなかった。
20)そう言うと、カウンターの女性は無愛想に「もう17年前からやってますけど・・」とつっけんどんに返答してきた。我が家の若い息子夫婦に聞くと、彼らは学生時代から何度か行っているらしい。たしかに昔の「名画座」的な雰囲気で、映画の音が廊下にも漏れてくるし、トイレの臭いさえ漂ってくる感じさえある(実際は漂ってこない)。
21)ネットでの情報を見ると、この映画より原作の小説はもっと込み入っているらしいが、私はもともと小説読みではないので、当面読まないでおく。そもそもそ小説なのだ
22)この映画と小説については、書き足らないこともある感じなので、そのうち続編を書くかもしれない。それは別にして、まぁ、いろいろ考えさせられた映画ではあった。
23)それにしてもあの時代に青春を送った私たちの世代にとって、あの学園内での「闘争」が人生の始まりだったかもしれない。私の場合は、これにプラスして、生徒会長制度を廃止して、代議員会を最高機関にしよう、という「代議員制設立準備委員会」の「闘争」も大きなイベントではあったが。
24)昔カラオケにおけば、よく「いちご白書をもう一度を」をよく歌ったものだが、最初、この映画は元祖「いちご白書」のような映画になるのかな、と思ったが、そうでもなさそうである。とは言え、やっぱり、私は「いちご白書」と並べてこの映画を見てみたい。甘酸っぱいシーンで一杯だ。(どことなく村上春樹の「ノルウェイの森」も連想する)。
25)服装自由化に関して言えば、高校一年の時は詰襟の学生服で過ごしたが、自由化された2年生時代からは、一度も制服も学帽も身につけたことはない。級友たちは、上は学ランで、下はGパン、という姿が多かった。
26)服装自由化って言ったって、今の若者のようにファッショナブルではなかった。私は二つのセーターを一週間ごとに交換してきていた。下はGパン。学生服を着たくない旧友たちは、父親の着ているナントカ工務店とか胸に刺繍文字の入っているカーキ色の作業服を着ている連中もいた。
27)靴も自由化になって、下駄をはくものもいたが、時には、トイレの婦人用下駄を履いて登校するものも相当いた。
28)私たちの青春時代にはあれだけ熱く語られた服装自由化だったが、親の世代になって、わが子たちが高校生になってみると、むしろ、いろいろオシャレを考えなくてもいいから、制服があったほうがよい、などと、他人ならぬわが子から言われる時代となった。
29)代議員会制についても、確かに生徒会長はいなくなったが、代議員会委員長、という存在が、結局は会長の代替となり、この制度はわが母校に関する限り、いまでも続いているらしい。
30)私たちの青春はこのような地点から出発したが、作者はこの小説のような方向性へと歩きだして小説家になったのだろうし、私は私なりに歩きだして、かつて書いた風な前半生への展開となった。
31)それと、あの時代に車を所有することができる学生なんてほとんどいなかったのではないか。いくら中古でもブルーバードではちょっとぜいたくすぎる。せいぜいスバル360か、ホンダのN360がいいとこだったのではないだろうか。
つづく・・・・・かもなぁ~~ 後日、原作を開いてみた。
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