「『走る原発』エコカー」 危ない水素社会 上岡直見<1>
「『走る原発』エコカー」 危ない水素社会<1>
上岡 直見 (著) 2015/07 コモンズ 単行本 134ページ
No.3773★★★★★
1)ルンルン気分で突然やってきたクルマ選びのチャンスに、エコカーというキーワードで、こういう本にぶち当たると、ぎゃふん、となって、一時体制を整えざるを得なくなる。これはとりあえず、一旦停止、右左、よく見てから渡らなければならない。
2)著者の骨子はこうだ。つまり、自動車社会は原発依存しているばかりではなく、依存推進に加担しているぞ、まんまとだまされるなよ。原発をみよ、国をみよ、そこに暗躍する者どもを見極めよ。
3)それに対して、率直に私は思う。まずは私は深夜電力は使わない。私のエコカーは、我が家の屋根の上にある太陽光で発電しているその電力を、発電している昼間に充電していく予定である。だから、直接的な原発推進にはならないだろう。
4)我が家における電力の発電VS消費の比率はほぼトントンである。使う分は作っている。だから、まずは第一段階はクリアしていると思う。ただ、そのクルマやほかの日常品が我が家にやってくるまでの電力には目が届かない。ましてや、家の外にでてしまえば、道路や施設のための電力については、私にはどうしようもない。
5)仮に我が家にPHVがやってきたとして、昼間我が家のP内にとどまっているマイカーが、仮に外に出て急速充電したとしても、ほとんどの施設は日中の使用が原則になっている。だから、深夜電力に、直接には依存しないだろう。また施設としても、わざわざ昼間の電力代が高くなるような深夜電力契約をしないだろう。
6)しかし、高速道路のような24時間運営のところで、夜間に充電することがあるとすれば、なるほど著者のいうように「走る原発」にもなりうる。しかし、それは、あまりな言いがかりでもある。
7)さて、本著は、深夜電力ばかりではなく、むしろ水素社会と言われる未来について語られているものである。その水素はどこからもってくるのか、と問う。私の頭はそこまで行っていなかった。どこからもってくるのか。外国から輸入ということもあるらしい。あるいは、高温ガス炉という、あらたな原発に一種を推進することに加担することになるのだ、と著者は主張する。
8)この本の巻頭で、著者と小出裕章氏の対談が10数ページに渡って掲載されている。小出氏は本著のゲラ刷りを読んだあとにこの対談を受けているということだから、本著の内容については、ほぼ肯定ないしは受容の立場であろう、と思われる。であるがゆえに、本著を粗末に読み捨てることはできない。
9)著者は1953年生まれ、私と同じ学年なので、同じような時代体験をしてきたであろう。化学部門の技術士として、「交通のエコロジー」、「自動車にいくらかかっているか」、「市民のための道路学」、「脱、道路の時代」、「高速無料化が日本を壊す」、「脱原発の市民戦略」、「原発も温暖化もないミライを創る」、「日本を壊す国土強靭化」、「原発避難計画の検証」などなどの著書があるという。出版社には、緑風出版とか、コモンズなどの名前が見える。どちらか、という傾向性がやや透けて見える。
10)結論を急いで、それではあなたはどう生活しているの?と問いたくなる。クルマは使わないのかな? エコカーは乗らないのかな? 都会には一切足を踏み入れないのかな? 電気をまったく使わない生活をしているのかな? 少なくとも私の読む限り、この本では著者は自分については何も語っていない。
11)この本の問題提起はともかくとして、私自身の立場をここで再確認しておきたい。私はクルマが必要である。エコカーが好きである。今使っているエコカー(ハイブリット)を10年10万キロ乗ろうと思っている。その次には、おそらくPHVを買うだろう。時がくれば水素自動車であるFCEVも選択肢の中に入ってくるだろう。
12)そして私は原発の存在については否定的である。3・11後は当然ながら、それ以前から否定的である。されど、その反対運動に部分的にかかわることがあっても、社会の流れには、乗って生活していかなければ、我が家は存在できなくなる。大勢には弱いのである。
13)友人には原発で働く者も何人かいる。女川で働く者もあれば、これから六ケ所村に技術者として積極的に働きに行く者もいる。私は肯定的ではないが、友人の一人として、彼らの生活、その家族の行く末を、それなりに注視していくつもりだ。
14)そして、なんであれ、この数十年、わずか半世紀の間にため込んでしまった原発問題とその廃棄物の処理については、知らぬ存ぜぬを通す気はまったくない。現実は現実だ。直視せざるを得ない。この問題は、私の生前には解決することはないだろう。いや、むしろ、他の問題も含めて、あとわずか数十年で解決するような問題などない。
15)私はいわゆる脱原発派だが、この高温ガス炉やトリウム発電などという技術にもやや関心がある。気が向けばそちらの関係を調べてみたりするが、そもそも好きではない分野なので、結局よくわからない。専門家の意見を聞くしかない。そして、この本の著者や小出氏は、否定的、まったく否定的だ。
16)はてどうするか。私は自分で自分の首を絞めるような趣味はない。自分は自分らしく、時には自信を持って、時には自省の念に恥じながら、まずは一人分の生命を全うしようと思う。私はクルマが好きである。だが、大事に使いたい。上手に使いたい。できれば、時には歩き、時には自転車を使い、クルマ依存生活は避けている。そして、もちろん、原発だけではなく、環境問題、エコロジーには常に関心を持ち続けたい。
17)そのような生活態度でいくと、著者のいうような視点もわかるものの、「『走る原発』エコカー」 危ない水素社会、というほどの警戒心を持つことはできない。それでは、どこかで自分の首を絞めていることになる。完全ではなかろうが、人間社会の中で、自分も生きていかなければならないのだ。著者の警句はわからないでもないが、逆にいうと、この方は、このような警句を発することがポリシーになっているようでもあるし、それで食べていらっしゃるようでもある。私は、直接的には原発やクルマから食べさせてもらっている者ではないが、わたしゃ知りません、とほっかぶりをする気もない。
18)非難は避難として、甘んじて受けよう。そのためには、著者はまず自分の生活を開示し、その解決策を、自分サイズで提供してほしい。そして、それがもし私の生活にもとりいれることができるのなら、大いに参考にさせていただきたいし、見習いたい。
19)しかし、この本を読んだ限りにおいては、なるほど、このようなアンチテーゼがあるのだ、ということを心に留めながらも、もうすこし周囲を見回してみたい、と思うのであった。
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