「『走る原発』エコカー」 危ない水素社会 上岡直見<2>
「『走る原発』エコカー」 危ない水素社会 <2>
上岡 直見 (著) 2015/07 コモンズ 単行本 134ページ
★★★★★
1)まず、問題となる部分はここからだろう。
燃料電池車は水素を燃料として使用し、走行時には温室効果ガス(CO2)を排出せず、大気汚染物質の排出も少ないため、「究極のエコカー」と宣伝されている。安倍政権が掲げる「成長」戦略はおよそ国民の健康や環境への配慮が乏しい項目ばかりなのに、なぜ燃料電池車を強力に推進するのだろうか。
自動車メーカーの新しいビジネスの開拓を支援する意図もあるだろうが、別の意図に注意を向ける必要がある。それは燃料電池車が大量に普及し、あるいは本格的な水素社会になれば、その製造過程で原子力と結びつくからだ。
燃料となる水素は、高温ガス炉という新形式の原子炉で製造するプロセスが提案されている。社会的に必需品である自動車と原子力を結びつければ、従来の電力としての需要のほかに、原子力からの脱却に抵抗する強力な手がかりとなる。
高温ガス炉の開発は、東京電力福島第一原子力発電所の事故以前から行われている。民主党政権で第三次エネルギー基本計画(2010年6月)では高温ガス炉の項目が削除されたのに対して、自民党の第四次エネルギー基本計画(14年4月)では復活した。
高温ガス炉は水素の製造と発電に兼用できる。冷却機能を喪失しても放射性物質の大量放出に至らないこと、内陸部へも建設できるなど立地の制約が少ないことが特徴とされている。
この点から原子力業界では輸出用として注目するとともに、国内での普及と実績づくりも目指している。従来も多くの自治体首長が誘致に積極的あるいは容認であった経緯から推測すれば、「一県一原発」の事態にもなりかねない。
仮に高温ガス炉が軽水炉に比べて安全性が高いとしても、原子炉を運転すれば核分裂生成物が蓄積するという関係は軽水炉と変わらない。既存の軽水炉の使用済み燃料でさえ、処理が行き詰まっている。形状がまったく異なる高温ガス炉の使用済み燃料の処理方法は、新たに開発しなければならない。
一方で、原子力によらない水素の大量供給減として、海外の安価な化石燃料(低品質の石灰など)から水素を製造する方法も提案されている。しかし、この方法では製造段階でCO2の発生が不可避である。
そこで「CO2を出さない」という見せかけのために、発生したCO2を液化して地下や海底に投棄するCCS(Carbon and Storage、二酸化炭素回収貯留)の導入が前提となっている。これでは本末転倒であるし、基幹的なエネルギーの海外依存という面でも改善になっていない。
また、高温ガス炉や「水素社会」のような調子のよい構想が本当に実現するのかという懸念もある。これには前例がある。
核燃料サイクルの構想のもとに計画された高速増殖炉(原型炉と称する「もんじゅ」)や六ヶ所再処理工場(青森県)は、膨大な費用を投入しながら本格稼働の見通しが立ていない。
高温ガス炉の実験炉(茨城県大洗町)は、臨界を達成した後に各種の試験中である。「産経新聞」の記事では「完成」と称揚しているが、これで完成なら「もんじゅ」も完成したことになる。
むしろ、短期間とはいえ発電した「もんじゅ」に比べて、はるかに低いレベルにある。高温ガス炉や「水素社会」は、成功すれば原子力利用のさらなる拡大を意味する一方で、成功しなくても完成への幻想を掲げたまま止めるに止められない浪費が続く可能性も危惧される。p2~4「はじめに」
2)最近、古い友人である水処理技術者が、半年ほどの予定で、六ヶ所村に旅立った。内部工事の監督をするのだという。おのずと私は身をひいてしまうが、身近にそういう思想がまかりとおっている限り、忌避すべきものとして、目をつむってばかりもいられない。そもそも当ブログがトリウム原子炉などを調べはじめたのは、この友人との対話の中からわきだした疑問からだった。
3)最近、東電は福一内部のメルトダウンした核物質を探査するためのロボットの設計を「公募」することにしたという。つまりは、自らはもうアイディアはありません、と、他の誰かに丸投げした格好である。おそらく、それは何とか対処していますよ、というポーズだけであって、実際には有効な手段は提出されずに終わる可能性が高い。
4)高速増殖炉「もんじゅ」にしても、あまりに杜撰な現場管理に業を煮やして、新たなる第三者の管理会社を「公募」したが、結局そんな既得な人物や会社は現れなかった。そこで、政府はようやくこの「もんじゅ」の廃炉に向けて決断する方向であるという。
5)さまざまな科学者や現場を管理する人々の「試行錯誤」をせめてばかりもいられない。たとえばスチュアート・ブランドの「地球の論点」に現れた「新しい原子力」なども、苦々しいが、もういちど再読し、より「現実的」な解決策を探る議論に入っていくことにする。
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