「<インターネット>の次に来るもの」 未来を決める12の法則 ケヴィン・ケリー<2>
「<インターネット>の次に来るもの」 未来を決める12の法則 <2>
ケヴィン・ケリー (著), 服部 桂 (翻訳) 2016/07 NHK出版 単行本: 416ページ 目次
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1)まだ読み始めて、第1章、第2章、そしてやく半分あたりまで読んだところであるが、思い浮かんだことを書き留めておく。
2)この方は、やはりシリコンバレーやイノベーターたちの活躍については極めて詳しい。通常のユーザーでは知りえない様々な裏事情まで知り尽くしているという意味では、プロレス界の裏事情をより細かく教えてくれた「悪役レスラーのやさしい素顔」(2015/03 双葉社)のミスター高橋を連想した。
3)ピーターことミスター高橋は、実際に長年にわたりアントニオ猪木率いる新日本プロレスのレフリーを務めた人物だが、ウェイトリフティングの猛者でもあり、またマッチメイカーとしても長年活躍した、プロレス界の裏の裏まで知り尽くしている人物でもある。リング上からしか知りえないこともたくさん教えてくれる。
4)それに比するところのこのケヴィン・ケリーもまた、花形プロレスラーでも話題の極悪ヒールでもないにせよ、研究所や雑誌の編集者として、シリコンバレーのイノベーターたちの間を長年動き回ってきた猛者であることは間違いない。彼でなければ知りえない裏事情もあるに違いない。
5)そして、ミスター高橋が、プロレス界を論じて、「勢い」、「波」、「アングル」という言葉を使っていたことを思い出した。まず、ベビーフェイスにせよ、ヒールにせよ、その登場の仕方に「勢い」がなければならない。そして、どれだけの「波」を感じているか、どれだけの「波」を起こせるかが重要だと述べる。
6)さらに彼が重要視し、何度も口にするのは「アングル」である。つまりは物語の大枠である。
7)例えば、相撲界で関脇まで上り詰めた力道山の「勢い」。これだけでは、仮に大関・横綱まで上り詰めたとして、これだけのヒーローにはなれなかった。彼はプロレス界に転じて、柔道やほかの格闘技などの「波」をつかむ。そして、最後は、外国からやってくる悪者レスラーたちを、バッタバッタと空手チョップでなぎ倒す、戦後日本に登場したヒーロー、という「アングル」がなければ、これだけの伝説のヒーローにはなれなかった、という具合である。
8)あるいは、初代タイガーマスクのことを考えてみよう。もし彼が佐山サトルというレスラーであり続ければ、軽量級のシューターとして、マニアの目には留まったかもしれないが、あれだけの空前絶後の旋風を巻き起こすことはできなかっただろう。
9)まず、シューターとしての「勢い」があった。そして、ジャイアント馬場率いる全日本プロレスに対抗する新日本プロレスに何か新しいヒーローを期待する「波」を受け、漫画やテレビアニメから抜け出るような「アングル」で、登場したからこそ、国民みんながこぞって、あの四次元殺法にフィーバーした、といういことになる。
10)ではこのたとえを例えば、パーソナルコンピュータにあててみよう。もし、コンピュータといういものが、IBMを筆頭とする巨大コンピュータを制作する大企業の独占物であったならば、おそらく現在のIT社会など登場しなかったのだ。その「勢い」だけでは、人類史に与える影響は限定的なものであった可能性が高い。
11)ところが、その巨大コンピュータを個人で所有したい。もっと小さくで安価で、使いやすいものにしたい、という「波」があった。それを体現化したのがスティーブ・ジョブズであり、あるいはビル・ゲイツたちであった。
12)彼らの動きは、巨大な像に立ち向かう、か弱きアリか、虫けらのような存在でしかなかった。その彼らが、次第々々に巨大コンピュータと同等の性能を持つパソコンを自作し、あるいは次第に大量生産することによって、さらに安価に導く成功譚という「アングル」を作りえたからこそ、パーソナルコンピュータは、「革命」に成功したのだ。
13)インターネットも、特殊な研究機関や大学を結ぶだけの、限られた機能だけだったならば、いくらパソコンが普及するという「勢い」があったとしても、これだけの変革はできなかった。それは私ももちたい、僕もほしいとなり、学生や研究者だけでなく、ゲームに走る子供や、家庭の主婦など、そしてあらゆる職場という「波」があったればこそ、やがて、「世界が一つにつながる」というアングルが可能になり、もはやインターネットのない世界など考えられない、という時代まで走ってきたのであった。
14)さて、これからが問題である。結論部分まで読んでいない段階では軽率だが、パーソナルコンピュータ、インターネットの次にくるものはなにか、と多くの人が考えている。そして、その答えの一つが、ブロックチェーン、なのだ。
15)ブロックチェーンはまだ、ブレイクスルーしたとは思われていない。しかしその直前である、という見方が大勢を占めている。ブロックチェーンの一番最初の話題は仮想通貨ビットコインであった。一部の関係機関が粗相したというニュースで始まったこの話題は、実は、まだ多くの人々の理解を獲得したとは言えない。まだ「波」をつかんでいないのだ。
16)あえていうなら、最近、このビットコインを含めた形で、金融や産業、政治を巻き込むように「フィンテック」という言葉が乱発されるようになってきた。ファイナンシャル・テクノロジーの訳であるフィンテックは、まだまだ未知のモノとして、イノベーターたちの話題になっているに過ぎない。しかし、彼らはどうやら、このブロックチェーンが次なる大きな「波」をつかむであろう、とみている。
17)ケヴィン・ケリーはおそらく、この後半部分で、そのことに触れるであろう。読みながらわくわくしているところだが、さてわが身に立ち返った場合、モノとしてのパソコンから、ネット社会へと移行してはいるものの、まだまだ、その本質をわが物としていないのではないか、という忸怩たる思いが湧いてくる。
18)彼に言わせれば、クラウドに情報を預けるのは当たり前のことだし、日々、データやソフトがアップデイトされ続けていくことは当たり前なのだ。そのことが当たり前になってこそ、次なるイノベーションがやってくる、というのだ。
19)グレードアップに乗り遅れたパソコンやプリンターに、いまだ頭を悩めている私なぞには、なかなか耳の痛い話ではあるが、たしかに彼のいうことには一理あると思える。
20)しかし、ドシロートながら、私の見るところ、このブロックチェーン、ビットコイン(仮想通貨)、フィンテックという「勢い」は、まだまだ大きな「波」をつかめていないばかりか、残念ながら、さらなる「アングル」を獲得していないように見える。
21)おそらく、国家を超えて活動する仮想通貨の時代は来るだろう。それは技術がすでに可能にしている。それを金融界や国家がどのように対峙しようかと思案しているのが現在の構図だ。このままフィンテックが進展していけば、それなりの「勢い」の加速にはなるだろう。しかし、それはおそらくインターネットの発展に比較した場合でもまだ「波」とは呼べないだろう。もっと、地球全体を巻き込まないとダメだ。
22)この地球上にある最大の問題は何か。戦争という愚かな行為であり、その戦争を引き起こす国家の存在である。そしてその国家たらしめようと、力の根源に据えられているのが原子力発電(核武装)である。ここを解決しないといけない。
23)二年前に「マネーと国家と僕らの未来」(茂木 健一郎, 堀江 貴文, 金杉 肇 2014/12 廣済堂出版)という本がでた。まだまだ説明不足だと思うし、直観的にはわかっていても、まだまだ具体化が遅れている。また大きな「アングル」を提供するにはまだまだ役不足だ。
24)ブロックチェーン、ビットコイン(仮想通貨)、フィンテック、という「勢い」が、この地球上に渦巻く平和への行進の「波」をつかんでほしい。そして、「地球上から、戦争、原発(核)、国家をなくす」という大きな大きな「アングル」をとらえた時、おそらくそれは、本当に、パーソナルコンピュータ、インターネットの次に来る、本当のイノベーション(革命や進化)と呼べるものになるに違いない。
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