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2016/10/18

「さよならインターネット」 まもなく消えるその「輪郭」について 家入一真<2>

<1>からつづく

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「さよならインターネット」 まもなく消えるその「輪郭」について <2>
家入 一真   (著) 2016/08 中央公論新社 新書 253ページ
★★☆☆☆

1)ケヴィン・ケリーの「<インターネット>の次に来るもの」 未来を決める12の法則(2016/07 NHK出版)を読み終わったあとに、こちらの本を読むと、実に薄っぺらな一冊だ、と気づかざるを得ない。

2)地方の引きこもり青年が、インターネットという「都会」に出かけていって、それなりに一旗揚げて、享楽して、いよいよ飽きたので、都会をすてて田舎暮らしもいいかなぁ、と、考えているのが、この方である。

3)かたやケヴィン・ケリーは、若くしてアジアを放浪し、シリコンバレーという「原野」にたどり着き、そこに開拓地を見つけながら、さらに原野奥深く、分け入っていこうという根っからのフロンティアだ。

4)インターネットという「都会」に住んでいるのは、両者とも同じだろう。そこになにがしかの問題を感じているのも確かだろう。そしてそこから、お二人はどうするのか。二人ともそこから脱出を図ろうとする。一人は、ふるさとの懐かしい街並みへ、もう一人は、さらなる未知なる原野へ、まったく方向性は異にする。

5)ケヴィン・ケリーは私より一学年上とはいえ、ほとんどの同時代人だ。それに比較すれば、家入は私たちの子供世代だ。まったく一世代違う。それにしても、見事なコントラストである。

6)もしこの二人の主張が、それぞれお互いの立場だったら、それはある意味妥当であっただろう。青年は荒野を目指すのであり、老年は静かに隠遁する。その景色なら、ある意味、どちらも妥当であり、際立つものがない。

7)しかしながら、ここにおける青年は、早々とアナログな隠遁を試み、かたや意気軒高な老年は、さらなる原野に向けて旅立とうとする。さらにこの老人は、すでにその黄金郷への案内地図さえ手に入れてしまったのである。

8)こんな若造に「さよならインターネット」なんて言わせておいてはいけない。キミひとりで作り上げたものなど何もない。インターネットが嫌いになったら、それはそれでいいだろう。静かに去りなさい。田舎にこもりたくなったらこもりなさい。それは個人の自由だし、その道もある。立派な道だ。

9)しかし、さよなら都市文明、と一人の若者が去ったとして、都市文明は崩壊はしない。キミが、さよならインターネット、と言っても、インターネットの発展は続く。あらゆる矛盾をはらんで、それは膨張し、進化していく。

10)ケヴィン・ケリーは、インターネットを享受した。そして、そのいくつかの問題点にも気づいている。そしてそこからさらにオプティムズムに支えられた未来像を描く。それは極めて妥当性に裏打ちされている。

11)この本とやや傾向が似ているのが「スマホをやめたら生まれ変わった」(2016/09 幻冬舎)のクリスティーナ・クルックだ。アメリカ人女性らしい感性で、この爛熟した、ある意味混乱したインターネット社会を見つめる。それから距離をおくことには妥当性がある。

12)しかしそれは、「森の生活」のデビッド・ソローの試みに似て、やがては町に帰る人の、実験的生活であり、振り返りや反省に基づいた試みではあったとしても、本質的な文明を変換し、進化させることはできない。

13)翻って、ケヴィン・ケリーのその旅は、2016年のいまだからこそ価値あるビジョンだ。少なくとも、私は息子世代からの引退宣言を受け取るよりは、同世代からのさらなる一旗主義に賛同する。

14)旅はつづく。荒野を目指す。

<3>につづく

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コメント

もう2年前の文章か。なかなか我れながら、いい文章書いてると思う。
武邑光裕の「さようなら、インターネット」というタイトルを見て、あれ、もう読んだかな?と思って、こちらにたどり着いた。
竹邑本はこれから読むが、まったく同世代ながら、昔から知っている名前なのに、どうもいい思い出がない。どうしてだろう。
この人、メディア美学者とかいう肩書きをお持ちのようだが、どうも土臭さがなく、高止まりしたシティボーイのイメージだけが残っている。
この人からだからこそ、というような影響を受けた印象がない。
彼の新刊を読んで、その印象がどう変わるか、楽しみである。

投稿: Bhavesh | 2018/08/08 03:15

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