「FinTechが変える! 」 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス 小林啓倫
「FinTechが変える! 」 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス
小林啓倫 (著) 2016/06 朝日新聞出版 単行本 256ページ
No.3800★★★★★
1)おなじようなスタンスだが、「FinTech入門」テクノロジーが推進する「ユーザー第一主義」の金融革命(辻庸介他 2016/04 日経BP社)に比較した場合、圧倒的にこちらのほうが面白い。それは、企業ファーストで書かれておらず、むしろ、それこそユーザー視線ファーストに徹底されているからである。
2)「<未来>のつくり方」 シリコンバレーの航海する精神 (池田 純一 2015/05 講談社)と比較した場合でも、アメリカと日本との対比に終始している池田本に対して、こちらはもっとグローバルな視点で話が進んでいく。大国ばかりではなく、中小の国家におけるそれぞれの事情を考える時、これからのグローバル・ビレッジにおける金融とはなにかを、真剣に考えたくなる。
3)そしてその視点の中から、やはり日本には日本のシステムや成長過程があるだろう、ということで、実際の我々の生活のレベルまで話が具体的になっていく。
4)ブロックチェーンやビットコインが持つ、分散型のデータ構造が不特定多数の人々が参加する仕組みを、インターネットと似ていると感じた方もいるかもしれない。実はそうした感覚は、いま数多くの人々が共有しており、現在のブロックチェーンをめぐる状況が「1990年代初期のインターネットと同じ」と指摘する人もいる。
この表現を聞けば、これから起きるであろう変化がどれほどのインパクトを持つのか、想像できるだろう。実際に世界経済フォーラムは2015年、今後の社会における重要な役割を果たす「6つのメガトレンド」のひとつにブロックチェーンを選び、2023年までにブロックチェーンの政府による利用に転換点が訪れるだろうとの調査結果を発表している。(中略)
いったいブロックチェーン技術は、社会のどの範囲まで、どのくらいの大きさの変化をもたらすのだろうか。まだその変化は、どのくらいの速さでやってくるのだろうか。正解は数年経ってみないとわからないが、本章で紹介した社会が到来しない可能性だけでなく、それ以上の大変革が生まれる可能性についても考えておくべきだろう。
上振れという形で予想が外れるというのも、私たちはすでにインターネットにおいて経験している。p220「ブロックチェーンは第2のインターネットとなるのか」
5)インターネットを通じた仮想通貨という意味では、かつてのバーチャルリアリティ・ゲーム「セカンドライフ」の仮想通貨リンデンドルを連想する部分もある。似ていて非なるものが、実はビットコインのブロックチェーンの技術なのである。
6)リンデンドルにおけるリンデンラボのように、仮想通貨の流通を中央で管理する機関がビットコインには存在しないという点だ。法定通貨における中央銀行や、電子マネーにおける運営企業(SuicaのJR東日本など)のような「発行主体」も存在しない。
それでも通貨としての安全性が確保されるように、ビットコインは暗号理論に基づいて設計されており(そのためにビットコイン)は「暗号通貨」と呼ばれることもある)、ごくわずかなコストでその仕組みが維持されている。
その結果、ビットコインによる決済や送金は、従来の通貨とは比べものにならないほど安く済ませることができる。p202「お金そのものが進化する」
6)フィンテックのみならず、本書ではインステックにも興味深い角度から触れている。
7)コンサルティング会社のプライスウォーターハウスターバースが2016年3月に発表したアンケート結果によれば、「フィンテックにどう取り組んでいるか」という問いに対し、23パーセントの保険会社が「取り組んでいない」と回答。
これが回答の中で、最も割合が大きかった。インステックという言葉は消えたとしても、フィンテックによって最大の破壊的変革を経験するのは、保険業界かもしれない。p162「保険も進化する」
8)ちょっと入り込みすぎていて、わかりにくいところもある本書だが、意味不明なところが少しあるこの本くらいが、ちょっとワクワクドキドキ感を得ることができて、読書としては面白い。フィンテックなんてもういいかなぁ、と思いつつ、いや待てよ、と思わせられる一冊である。
9)当ブログとしては、今後、フィンテックのどこにターゲットを絞って調査していくのか、について、大いなる示唆を受ける一冊である。
10)フィンテックは金融のテクノロジーではなく、社会全体を変えるテクノロジーだ。さまざまな問題をお金とフィンテックの視点から考えてみることで、いままでにない解決法が見えてくるだろう。(中略)
そして、金融を超えた日常生活と結びつけばつくほど、金融業界に革命的変化を起こし、社会を次世代へと導くだろう。p253「フィンテックは『金融のテクノロジー』ではない」
11)チェーンブロックやフィンテックというネーミングは、本当の意味での名前をまだ与えられていないのだ。字義的に理解するだけでは本当に起きていることを把握することができない。今のところは仮称チェーンブロック、仮称フィンテック、とさえ呼んでいたほうがいいようにも思う。新しい言葉に新しい意味付けが始まるのはこれからなのだ。
12)そしてそれが起こるかどうかは、「あなたがそれを望むなら」、というキーワードにかかっている。
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