「<未来>のつくり方」 シリコンバレーの航海する精神
「<未来>のつくり方」 シリコンバレーの航海する精神
池田 純一 (著) 2015/05 講談社 新書 320ページ
No.3796★★☆☆☆
1)3・11震災直後に読んだ「ウェブ×ソーシャル×アメリカ」<全球時代>の構想力(2011/03 講談社)には感動した。だいぶ真面目に読んだし、ためにもなった。しかし、ほとんどが震災以前に脱稿された本だったので、そこのところがとても残念だと思った。
2)この人の震災後の本ならきっと面白いだろうと期待して読んだ、「ウェブ文明論」(2013/05 新潮社)、この本は、結局、前著の焼き直しであり、また3・11に対する本格的な言及がなかったし、どうも個人的には接点を感じることができなかった。
3)また、3・11以前にすでに出版されていた「デザインするテクノロジー」情報加速社会が挑発する創造性(2012/10 青土社)も、どうも私が読みたいと思うような内容ではなかった。
3)そして今回、この本を読んだ感想はやはり似たようなものだった。この本が最初の一冊なら、それはそれで面白いのだと思う。しかし、どうも同じような本であるし、確かに第一冊目よりかはスマートになってはいるのだが、濾過された分、どうも苦みもなくなり、ひっかかりも少なったイメージである。
4)どうも面白くない。視点が違う。結局その皮膚感覚は見事に当たったようだ。最後の最後になったが、著者の言葉にこういうところがあった。
5)このように文明ないし文化ごとの時空感覚の差異は、根本的なところで未来への態度を決める。この点では、19世紀末に東洋と西洋の狭間に立って、両者の間の文化交流を促した鈴木大拙の科学観が参考になる。
大拙は、シカゴ万博が開催された頃のシカゴに8年間滞在し、禅をアメリカに広めるのに貢献した。同時に、プラグマティズムの創始者の一人であるウィリアム・ジェイムズの思想を日本に---特に同郷人の西田幾多郎に---紹介したことで知られる。
その大拙は、「科学教育の振興につきて」というエッセイの中で、「東洋民族の中でどうして科学が発生しなかったのか」と問い、西洋が科学が生まれた土壌や、そこから生じた科学の精神を知ろうとしなければ、仮に科学の天才が生まれたとしても、それは属人的で突発的な出来事でしかなく、永続性や普遍性を持たないと指摘している。
要するに、西洋由来の科学的精神にまで立ち返る必要があるということだ。この指摘は、大拙自身が、東洋と西洋の双方の思想に通じていただけに謹んで受け止めるべきものであろう。p313「あとがき」
6)結局ここで著者は鈴木大拙の言葉を借りながら、東洋(日本)人としての自分は西洋(アメリカ)に行き、そのレポートを東洋(日本)に向けて、発しているだけであることを明確にする。つまり、この本はシリコンバレーの最近の動きをコンサルタントとして、日本におけるクライエント向けにまとめているだけであり、東洋や西洋という枠組みを超えた、あるいはネットやITという世界を超えた、全体的な人間としての、未来の姿を、自らの道として探ろう、としているわけではないのだ。
7)取材者ではあっても、求道者ではない。そこんところが、一読者の私としては、どうも納得がいかないのだろう。
8)ご説ごもっとも。それで、あなたは? といつも問いたくなるのはそのせいなんだな、と納得した。
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