「スマホをやめたら生まれ変わった」クリスティーナ・クルック
「スマホをやめたら生まれ変わった」
クリスティーナ・クルック (著) 2016/09 幻冬舎 単行本: 310ページ
No.3794★★★★☆
1)またまた気をてらったタイトルである。そもそもの原題はThe Joy of Missing Out : Finding Balance in a Wired World である。当たらずとも遠からずではあるが、日本語と原語では、かなりニュアンスが違ってくる。特に読み手にとっては、かなりのイメージの違いが生じるであろう。
2)かつては草思社にこの手のタイトルが多かったが、なるほどこれも幻冬舎か。あり得るな。
3)この本の著者は確かに女性ではあるが、はやりに乗ってスマホを手にとり、いい加減疲れて、ああ、やっぱりアナログはいいなぁ、とつぶやいているような本ではない。むしろ、ITや情報社会の先端にいる専門家だ。イノベーターと言ってもいい。決してその辺のラガードおばちゃんが書いた本ではない。
4)そんなこと、タイトルに惹かれたからと言って、一ページでもめくればすぐわかることではあるが、出版社の意図として、このようなタイトルは、私はあまり好きではない。むしろ原題にある Wired World という単語に注目する。
5)今回、当ブログは期を区切ってあたらしいカテゴリーを始めたところだが、タイトルを「FinTec」とした。近日発売の「WIRED」誌の今号の特集が「FinTech」でもあることから、半分妥協的にスタートしたことのタイトルだが、私はむしろこの「wired」という言葉を追っかけている最中である。
6) wired とは ピン留め 主な意味 針金で補強した、有線の、盗難警報機がついている、興奮した、(麻薬に)酔った Wiblio
7)という意味らしいが、スラング辞典によれば、さらに若干のニュアンスの違いがある。
スラング: wired
wired=Very stimulated or excited, as from a stimulant or a rush of adrenaline. hyperactive, alert
意味: 興奮状態 覚醒状態
wired 例文:
•I am so wired after drinking five cups of coffee.
5杯もコーヒーを飲んだら、凄く興奮状態だ。
•Kids were wired from the sugar they had.
子供達は食べた糖分で興奮状態だ。スラング辞典/アメリカ生活101
8)WIRED誌は、1993年にアメリカで創刊された雑誌だが、そのそうそうたる執筆陣で、ひときわ他紙をひきはなす際立った雑誌である。
9)本国版は1993年1月に創刊された。その創刊号のなかで、『WIRED』は単なるテクノロジーについての雑誌ではなく、デジタル革命を人類が火を扱えるようになったときに匹敵するほどの社会変化だととらえ、そこにmeaning(意味)とcontext(文脈)を与えていくことを「究極のラグジュアリー」だと宣言した。その後、その時々の社会変化に応じて、ロングテールやクラウドソーシングといった時代を象徴するキーワードを提唱してきた実績がある。wikipedia
10)この本の中には、たびたびこのWIRED誌についての言及がある。この女性もこのようなバックグランドをもっており、さらにその世界にどっぷりつかったうえで、さらに一度一か月メールなしの生活を送ってみた、ということである。
11)さらにこの本では、マインドフルネスについての言及もめだつ。
人間心理学の生みの親、アブラハム・マズローによれば、自己実現には、有害な文化適応に対する抵抗が必要だという。
私たちの時代で、強く推す力とは何だろうか? 消費せよという力だ。あるいは、もっと情報を、もっと製品を、もっとつながりを、という力である。それではどのように押し返したらいいのだろうか? 減速すること、そこに存在すること、もっと近づくことだ。
ひとつは、サブリナ・ウォード・ハリソンが「敬意」と呼ぶ方法で生活にアプローチすることだ。ハーバード大学の心理学者、エレン・ランガーなら、それと同じものをマインドフルネスと呼ぶだろう。それは新しいものに積極的に気づくプロセスであり、精一杯生きていること、現在に生きていることである。p211「生活に新しい方向を与える--手書きに学ぶ」
12)表現方法はなんであれ、ここで言われているマインドフルネスは、当ブログで常用してきている瞑想=meditationとほぼ同義の言葉であり、また、ルーツとしては禅=ZEN、あるいはインド世界のディアーナと一脈つながるコンセプトである。
13)NHKテレビ「がってん」では、前駆番組を含め、スタートしてから21年目にして、「めい想」を特集した。一般家庭に送り込む番組であり、その取り組みに難なしとはしないが、すくなとくもt1995年にスタートしたこの番組シリーズが「21年目」にして、この特集を組んだということは注目に値する。この番組の中でも、取り上げ方の良しあしはともかく、マインドフルネスがレポートされていた。
14)1990年代半ばにして、私たち日本社会は不幸にも、あの暴力集団の愚行により、「瞑想」という単語をタブー視するようになった。まともに光を当てることができなくなってしまったのである。あれから21年、事実は事実として、必要なものは必要な事実として、浮かび上がってこざるを得ない。
15)気づきであろうが、マインドフルネスだろうが、時代にあった表現方法がでてくるのはよいことであろう。
16)この本を、デジタル社会への拒否としてのアナログ生活推進と捉えるのは当然間違いである。シンギュラリティなどというFinTechなどを含む大きな終着点へと突き進もうとしているIT社会に対する、明確な人間性としてのマインドフルネス(瞑想)などの新しい動きへの着目、と捉えるべきであろう。
17)それは併存するもの、あるいは補完しあうもの、そして、ついには人間は人間として、より高見へと進化するためのプロセスの一部としての現象である、と捉えておくべきだろう。
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