「さよならインターネット」 まもなく消えるその「輪郭」について 家入一真<1>
「さよならインターネット」 まもなく消えるその「輪郭」について<1>
家入 一真 (著) 2016/08
中央公論新社 新書 253ページ
No.3798★★★★☆
1)煽情的なタイトルの割には、内容はいたっておざなりな内容である。「スマホをやめたら生まれ変わった」(クリスティーナ・クルック 2016/09 幻冬舎)と同じように、そもそもがその世界のエキスパートでありながら、それを捨てるというポーズを取って、衆目を集めようとする、あざといタイトルと言えないわけではない。
2)逆に、「<未来>のつくり方」 シリコンバレーの航海する精神(池田純一 2015/05 講談社)のように、シリコンバレーのことを日本人に教えてやるんだとばかり、これでもかこれでもかと情報をかき集めて送り続けながら、自分のことはほとんど書かない本とは対極にあると言える。
3)著者については2014年の東京都知事選に、舛添要一、宇都宮健児、マック赤坂、ドクター・中松、細川護熙と言ったお歴々と対等に立候補した若者、というイメージしかなかった。しかし、その立候補は、中学生時代からネットに接してきた人物のほんの最終章にあたる小さな出来事でしかなかったようだ。
4)さようなら、というタイトルなら、結構書ける。例えば、「さようなら原発社会」でもいいだろうし、「さようなら都市文明」でもいいし、「さようなら地球」でもいいだろう。しかし、簡単には、そのタイトルどおり、そのようにはならない。ならないからこそ、新刊本の売らんかな精神の権化としてこのようなタイトルになるのだろう。
5)「さようならパーソナルコンピュータ」なら、たしかにそのようには書けるかもしれない。ブラウン管があり、キーボードがあり、マウスやプリンターまでブラ下がっているようなパソコンには、すでに多くの若者が「さようなら」を告げている。それはいつの間にか、タブレットになり、スマホになっている。
6)そういった意味においては、たしかにパソコンの姿は変わったが、それは単に小さくなってキーボードやマウスが消え、さらに最小になってポケットに入ってしまっただけである。パーソナルコンピュータであることには変わりはない。
7)同じく、インターネットにしても、電話線を介してピーヒョロロの時代から見れば、常時接続になり、WiFiが充実し、無線接続が当たり前になった現在においては、たしかにちょっと前のことには、さようなら、を言うことは可能だ。
8)それと同じ意味において、現在のインターネットも、やがては次の世代に取って代わられるわけだから、とにかくさようなら、と言っておくことも可能は可能である。しかし、本質的に、著者もまた、インターネットと言われる、いわゆる人類史におけるイノベーションとまったく手を切る意図があるわけでもないし、すくなくとも、本書においては、それをまったく過去のものとして捨て去る方便をもっているものではない。
9)意地悪く言えば、所詮、一冊モノにして、すでに何度も書いた自己史をなぞっているだけであり、多少の提言はあるとしても、上から目線で、更に若い世代へと「忠告」しているような内容である。デスマス調で書かれていなかったら、大いなる自慰的なつぶやきで終わってしまうだろう。
10)そうわかったうえでも、この1978年生まれのすでにミドルエイジに達した人物の言行は、わが子世代がどのように考え、どのような体験をしてきたのかを知る上では参考になる。若い若いと言っても、世の中、このような世代がすでに社会の中核になっているのである。若いもんには花を持たせなければならない。
11)わかりやすい一冊ではあるが、読みようによっては、ちょっと鼻につく本である。
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