「フィンテック」柏木 亮二
「フィンテック」
柏木 亮二 (著) 2016/08 日本経済新聞出版社 日経文庫 新書 256ページ
No.3790★★★★☆
1)本書は「フィンテック(Fintec)」の基礎的な解説書です。(中略)もっとわかりやすくいえば、上司から「フィンテックって何?」と聞かれたときに、その質問の内容にうまく答えられるような構成になっています。p3「初めに」
2)著者はおそらく年齢的には40歳台半ば、IT研究所の中堅どころ。すでに還暦過ぎの私などは、「え~、柏木くん、ふぃんてっく、ってなにかね、ふがふが」などと聞く役どころではあるだろうが、役員でも上司でもない私は、偉そうに聞きただすことなどできない。ただひたすら拝聴するのみである。
3)この本、先に読んだ「FinTech革命」テクノロジーが溶かす金融の常識(2016/01日経BP社)に比べれば、内容はややおとなしく、日本国内的視点が重視されており、読みやすく、わかりやすい。
4)いままでは、革命や進化、という単語には割りと簡単に飛びついてきたが、イノベーション(改革)という単語は、どうも相性が悪かった。革命や進化は、夢はあるけれど、現実味がなく、目は惹かれるけれど、現実の自分は安泰、というイメージがあったのだろう。
5)この本は、革命や進化というより、イノベーションというニュアンスでフィンテックをとらえている。その分、現実味があり、現実のわが身がゆすられるような危険を感じる。今日、あすにも、足元がどんどん崩れていく感覚がある。
6)「1975年のパーソナル・コンピューター、1993年のインターネット、そして2014年のビットコイン」---これは著名なベンチャー・キャピタリストである、マーク・アンドリーセンがビットコインのインパクトについて述べた言葉です。p230「ビットコインとブロックチェーンの登場」
7)当ブログにおいても、「ビットコイン関連リスト」を作成して散発的に追っかけを繰り返してきたが、全体的にはよくわかっていない、と言っていい。私たち末端のマジョリティには、それが海のものとも山のものとも判断がつかない。
8)長じて、現在においては、話題の中心としてのビットコイン、その中核的な技術としてのブロックチェーン、そしてそれらを大きく含むところの動きをフィンテック、と呼んでおいて、まぁ、大きな間違いではなさそうだ。
9)保険業界にもフィンテックの波は押し寄せています。保険領域でのフィンテックは、「保険(インシュアランス:Insurance)の頭文字をとって特に「インステック(InsTech)と呼ばれています。(中略)
保険業界はテクノロジーの進化によって大きな影響を受ける可能性のある業界です。それには大きく4つの理由が考えられます。
まずはビックデータの影響です。(中略)
2つ目はリアルタイムの情報が利用できるようになることです。(中略)
3つ目が自動運転という技術改革です。(中略)
最後に、保険の販売チャンネルの問題です。(攻略) p165(インステックが保険業界に与える影響)
10)この業界は、かつてパソコンの登場やインターネットの普及によって、大きく影響を受けてきた。情報産業であり、データ産業でもありながら、また金融産業でもあるこの業界に、さまざまな技術革新の手がはいり、ひと昔前とは大きく姿を変えている。
11)今後、このフィンテックやインステックと呼ばれる技術革新は、大きく業界全体の姿を変えるであろう。いや、もうすでに始まっている。
12)アメリカにトロフ(Trov)というマイクロ保険を販売しているフィンテック企業があります。この会社はスマートフォンやデジカメ機器を対象とした少額の保険を販売しています。このマイクロ保険のすごいところは、スマートフォンからいつでもオン・オフができる点です。
例えばデジカメに保険をかけたいとしましょう。通常この手の保険は年単位の契約が基本ですが、トロフの保険なら旅行に出かけるときには保険を「オン」して、自宅に着いたら「オフ」にするような使い方が可能です。
トロフは盗難や破損のリスクが高いときだけ利用できるオンデマンド保険なのです。p247「さらに進化するフィンテック」
13)この程度のことならば、なにもアメリカの例を取り上げる必要もない。海外旅行保険などは、スマホから勝手にいつでも契約することができるし、自動車保険でも、登録さえしておけば、スマホから一日~数日だけの保険加入が可能になって久しい。
14)ただ、それらの契約形態は主流とはまだなっていない。そういうこともできますよ、というレベルであり、保険会社としても、未来におけるインステックに向けての助走といえるだろう。
15)広告の目立つインターネット保険だが、その契約数はおそらく全体の数パーセントから10数パーセントのレベルではないだろうか。ゼロから始まったのだから、そこまで来たというのもすごいことではあるが、50パーセントを超える、全体の多くを占める、というところまでいくには相当の時間がかかるに違いない。
16)欧米でのネット保険の普及率も20パーセント前後で伸び悩み、と聞いてはいるが、今後の推移やいかに。アメリカの保険会社は、日本のメガ保険と違って、中小零細の、一部に特化した保険も多数ある。その中にたしかにトロフのような存在もあるのだろうが、日本の実情から考えてみると、はてどうであろうか。
17)ペット保険やらナントカ共済やら、さまざまサービスも見聞するが、その信用度でいうと、かなりグレーな部分も多い。有効に役立てはそれに越したことはないのだが、なにやら怪しいサギ商法などのようなものにも、ひっかかりたくはない。
18)なにはともあれ、おとなしぎみだが、この本において、日本的視点におけるフィンテックのイメージができた。
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