「ネットで進化する人類」 ビフォア/アフター・インターネット 角川インターネット講座15 伊藤 穰一 (監修) ドミニク・チェン他<3>
「ネットで進化する人類」 ビフォア/アフター・インターネット角川インターネット講座15 <3>
伊藤 穰一 (監修) 2015/10 KADOKAWA / 角川学芸出版 単行本213 ページ、 Kindle版 ファイルサイズ: 4328 KB
★★★★☆
1)正月に当たって、もういちどこの巻をめくりなおしてみた。伊藤穰一の直観的で断片的なコメントだけでは、いまひとつ納得感がなかったし、もうすこし深さも欲しかった。その推察は一応正しかったが、今回の読書で、新たにドミニク・チェンを再発見したことは大きかった。
2)彼については、一度当ブログでも拾ったことがあったけれど、十分ではなかった。
3)有史より、個々人の認知限界から生じるさまざまな問題---自然現象の不可知、社会の崩壊などの解決不可能な事象---を回収し、個人を世界と接続し秩序をつくるための機構として「宗教」が機能してきた。「宗教(religion)」という言葉は、ラテン語源に由れば、「re-ligio」=「再接続」を意味する。それは多様な人間からなる集団を共通の物語のもとで統治するという実際的な定義であると同時に、個々の人間が「わたしがわたしとして存在する理由」、言い換えれば自己同一性を担保する物語装置として作動するものとして理解できる。ドミニク・チェン「いきるためのメディア」(2010/08 春秋社)p295「コミュニケーションとしての統治と時間軸の設計」
4)「宗教のない世界」というフレーズはジョン・レノンの樂曲「Imagine」で世界的に知れ渡った。それは宗教が人類史を象徴する大半の紛争の理由として利用されてきた経緯を表しているが、それゆえに共同体を統治するための再=接続装置は「宗教」とは別の概念、別の呼称をもって更新される必要性があるものとしてとらえることもできる。ドミニク・チェン「同上」p298
5)この「生きるためのメディア」が出た当時は、まだドミニク・チェンの活動全開とはなっていなかったようだ。
6)前回、この「ネットで進化する人類」を読んだ時は、次の部分を抜き書きしていた。
7) ソフトウェア以外の著作物もまたオープンにしようというフリーカルチャー運動に属するクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのなかでも、フリーソフトウェアと同等の自由度を利用者に与える作品をフリーカルチャラルワークス(自由な文化作品)と定義している。ドミニク・チェン「ネットで進化する人類」p086 「フリーカルチャーに通底する思想」
8)4分と33秒の間、全く演奏を行なわない演目に注意を向け、逆に体内や環境に偏在する音に気づかせるというコンセプトの楽曲「4’33”」を書いた20世紀のジョン・ケージは、米国で禅の思想を説いた鈴木大拙に師事して以来、「妨害なき相互浸透」(interpenetration without obstrukution)というフレーズに取り憑かれた。
もともと仏教思想から鈴木が英訳した言葉だが、ここまで考えてきた私たちの言葉でいえば「妨害なき」とは他律的な制御の影響のない状態、そして「相互浸透」とは相互の有機構成が密接に連関したコミュニケーションとしてイメージすることができる。ドミニク・チェン「ネットで進化する人類」p95「人間のためのデザインのプロセス」
9)世代的には、ドミニク・チェンの文章にもでてくる1952年生まれのケヴィン・ケリーの方が親しみを持つ。1966年生まれの伊藤穣一の研究には注目せざるを得ないが、世代的なズレを感じないわけではない。
10)それに比すれば、1981年生まれのドミニク・チェンは、私などから見れば一世代下、つまり子供の世代である。もちろんジェネレーション・ギャップを感じないわけではないが、むしろ小気味いいギャップである。ここまで割り切れて語ることができる、という期待感がある。
11)現代の主要な検索エンジンはインターネット全体の氷山の一角しかインデックス化できていないといわれ、そのまだ暗い領域はディープウェブと呼ばれている。私たちの無意識下の膨大な生命情報はあたかも個々人が内部に抱えているディープウェブのようである。
そこからデータを採取する生体センシング技術の発展と、機械学習やビッグデータ解析といった情報技術の適用が行われれば、内的なディープウェブとしての私たち自身の無意識に対する解像度が高まり、そこが新たに自律的な産出と他律的な算出がせめぎ合う戦場となろう。その時、人間はありのままの、生身の心的システムの挙動を見ることが可能になる。093ドミニク・チェン「無意識という深層の捕捉と活性化」
12)本書のタイトル「ネットで進化する人類」にズバリ対応するような言及である。
13)しかし、ことはそう簡単ではないことはすでに知られており、意識というものは、これ、と示すことが出来ず、これでもなければ、あれでもない、という「非」を使ってしか指し示せないと言われている。とすれば、どこまでも発展していく技術を、最後は否定するというパラドックスの奥に隠れているのが意識であれば、新しい世代のこれらの研究もいずれは、次の世代へとバトンタッチしなければならないわけで、それこそがまさに大々逆説的に「ネットで進化する人類」となってしまうのかもしれない。
14)ちょっと早すぎると思うが、ドミニクチェンの関連リストを作っておく。
「いきるためのメディア」2010/08 春秋社
「フリーカルチャーをつくるためのガイドブック」2012 フィルム・アート社
「オープン化する創造の時代」 著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論2013/06 kadokawa Kindle版 電子本
「インターネットを生命化するプロクロニズムの思想と実践」2013/07 青土社
「シェアをデザインする」 変わるコミュニティ、ビジネス、クリエイションの現場 共著 2013/12 学芸出版社
「みんなのビッグデータ」リアリティ・マイニングから見える世界 イサン・イーグル 2015/01 エヌティティ出版
「電脳のレリギオ ビッグデータ社会で心をつくる」 2015/03 NTT出版
「ユーザーがつくる知のかたち」 集合知の深化 角川インターネット講座 (6)
西垣通(監修)2015/03 KADOKAWA
「ネットで進化する人類」ビフォア/アフター・インターネット 角川インターネット講座(15) 2015/10 KADOKAWA
「シンギュラリティ 人工知能から超知能へ」 マレー・シャナハン (著), ドミニク・チェン監訳2016/01 NTT出版
「謎床: 思考が発酵する編集術」松岡正剛と共著(2017/07 晶文社)
つづく
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