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2017/01/14

「死にゆく人と共にあること」 マインドフルネスによる終末期ケア J・ハリファックス<1>

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「死にゆく人と共にあること」 マインドフルネスによる終末期ケア<1>
J・ハリファックス (著),    井上 ウィマラ[監訳] (翻訳),    中川 吉晴 (翻訳),    浦崎 雅代 (翻訳),      & 2 その他 2015/4 春秋社 単行本(ソフトカバー): 352ページ
No.3861★★★★★

1)昨年後半から、マインドフルネスというキーワードで図書館に何冊かリクエスト中である。運よくすぐ読めた本もあるし、もう半年待っているのにまだ私の番にならない本もある。

2)その中にあってこの本はすぐに私の番になった本であり、続いてリクエストも入ってはいなさそうだ。本にも人気不人気があり、この本はひょっとする不人気本なのかもしれない。

3)そんなななめ心で手に取った本書ではあるが、極めてよい本である。おそらくすでに2年前の本なので、新刊本というジャンルからはやや外れてきたのでリクエストがしやすくなっているのだろう。

4)1942年生まれのアメリカ人女性。医療人類学者。仏教、特に禅の世界についての造詣が深い。この本の成り立ちはともかく、日本の仏教書を読んでいるような感覚にさえなる。しかし、中途半端で終わらずに、徹底した岩盤があるかのような理知性はよく悪くも、欧米人による一冊であることを思わせる。

5)翻訳も、複数の人々が関わっているようだが、出版社が春秋社ということで、破綻がない。読んでいてこれでいいのだ、と思う。

6)ウパーヤ禅センターには、ブッダの育ての母であるマハーパジャパティの美しいブロンズ像があります。その表情は穏やかで、右手を上にあげて、手のひらを外に向けています。これは「施無畏(せむい)(訳注・恐れのなさを提供する)」という名で知られるポーズです。死にゆくプロセスとともにあることへと入っていくとき、私たちが他者と自分自身に与えることのできるいちばん大切な贈り物は恐れがないということです。p109「施無畏」

7)よくぞまぁ、この本でこの言葉を取り上げてくれたと思う。20歳前後の時、私を大きく仏教の世界へと後押ししてくれた祖父が、それから10数年後に亡くなった。その際、形見分けのような形で、遺品整理していた時、見つかった祖父の手帳に書かれていた言葉がこの「施無畏」だった。まるで、私にとっては宮沢賢治の手帳から見つかった「雨ニモマケズ」のような言葉だ。

8)この言葉を知ったあと、私はあえてその字義を探索しなかった。ずっとこの言葉を心の中で温めていた。「施」と、「無」と、「畏」と、三つの漢字でできているこの言葉。

9)施しにはいくつかの例がある。物品、金品による施しもある。時間や、行為による施しもある。道を教え、人々を導く施しもある。「自未得度先度他」もまた祖父から「人生で最も大事なもの」という問いに対する答えとしてもらった言葉だが、菩薩の道として、施無畏は、極めて純度の高い行為であると、感じられた。

10)無は仏教の根幹をなすキーワードだが、この場合は、次に連なる言葉の否定形として使われている。「畏」。畏怖という言葉はあまり多用はされないが、とにかく恐れや怖がることを表しているのだろう。

11)人々が畏れ無いように、態度や言葉や、ふるまいで施す行為。不安を取り除く、心を安ずる、安心させる。いくつかの技法の上に存在する心構えとして、カウンセリングに立ち会う時に、私が最も基本としてきた姿勢だ。また、日常的な業務のうえでも「あんしん」は実に大事なキーワードであり続けてきた。

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12)祖父の農家の屋敷林には樹齢1300有余年と言われるカヤの木があった。いまでも市の名木選に数えられている古木だが、住宅街となって数年前に伸びきった枝が間伐されたことがある。その時の切り取られ、廃材となった枝で、最近、薬師瑠璃光如来像を彫り始めたところだ。

13)右手が施無畏印、左手には薬壺を乗せているが、メディスン・ブッダと英訳されるこの壺に入っているのは、メディスンのもっとも純化されたもの、メディテーションであるはずである。

14)ホスピスを訪れたこともあるし、死にゆく人々とともにあったこともある。最近私は40数年来の古い年上の友人を失った。彼もまた家族に見守られながらホスピスで最期の日々を送った。彼は最後の最後に、人々の役に立つようにと、自らの亡骸を大学病院の研究用に献体するよう遺言して亡くなった。

15)私は決して彼のためにこの薬師瑠璃光如来を掘り始めたのでもなければ、そのことばかりを思っているわけではない。しかし彫り進めるにつれて、いつも傍らにあの大きな目と大きな体で、彼が後ろから私を抱いてくれているような思いになる。

16)回向しているつもりはなかったのだが、私は私なりに、彼への思いを整理しつつ、ひと彫ひと彫り、進めている。

<2>につづく

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