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2017/01/31

「電脳のレリギオ」 ビッグデータ社会で心をつくる ドミニク・チェン

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「電脳のレリギオ」 ビッグデータ社会で心をつくる
ドミニク・チェン   2015/03エヌ NTT出版 単行本(ソフトカバー): 167ページ
No.3874

1)ドミニク・チェン。目下、当ブログ注目のライター、表現者である。

2)哲学やサイバネティクスの理論が影響していることもありますが、僕自身が日本と台湾とベトナムの血を引き継ぎながらもフランス国籍の人間として育ち、アメリカの大学で学ぶ、というまさに文化的にバラバラな生き方をしてきて、血統的だったり国家的な帰属意識がいまに至るまでずっと希薄であることも関係しているように思います。p022「情報に情けと報いは宿るか」

3)名前から察するに、そのような背景があるだろうことは察することができるし、その立場からの発想に期待する私のような読者たちがいる。

4)Religionレリジョンの語源は、ラテン語のReligio(レリギオ)ですが、それは「宗派の教え」と読み取れる日本語の「宗教」とは全く意味が違います。

 Religioレリギオという言葉の成り立ちには諸説がありますが、その一つはre-ligioというように、強調や反復を意味する接頭語の「reレ」と「結び」を意味するリギオという言葉からなっているとするものです。つまり、「再び結ぶ」「強く結ぶ」という意味であり、「神と人のつながり」を表すという説があります。

 興味深いのは、直接「結ぶ」のではなく、「再び」もしくは「強く」という意を表すre-レがついていることです。つまり、この語にはある喪失が前提とされていると考えることができます。宗教学者であれば、それを神的な存在との接続を取り戻すという意味で捉えるでしょう。p019「レリギオ」

5)この多文化の背景を持つ、1981年生まれの若い、科学者にしてビジネスマンは、表現方法に長けている。レリギオ、って何だろう、と本のタイトルにググっと惹かれてしまった

6)しかし早い話がre-union再結合なのであって、話の展開そのものが目新しいわけではない。当ブログでは、コンテナ、コンテンツ、コンシャスネス、の三コン論に終始してきたわけだが、サブタイトルの「ビックデータ社会で心をつくる」jに表われているように、コンシャスネス論につながる可能性を期待させる内容である。

7)読んでみた結果、可能性はあるが、まだまだ道半ばの内容と判断した。★5とレインボー評価、どちらにするか悩んだが、若い故に未来があるので好意的に評価することとした。

8)僕が仲間と会社を立ち上げて間もなく発表した、リグレトというオンラインの匿名掲示板サービスでした。(中略)このサービスを開発運営するための資金調達を行っている時に、投資家と「これは宗教2・0とでも呼べるサービスになりえる」という話になりました。p015「情報技術と『心』」

9)著者の発想や表現は若く、非常に豊かで今後に大いに期待しているのだが、研究者であったり、大学の講師であったり、企業家であったり、作家だったりするので、器用でありつつ、多方面に気を配りする気配がある。本当に言いたいことや、独自性、強調すべきこと、などが、どこかボケてしまっていることもある。

10)世界最高峰の学際的な研究機関であるマサチューセッツ工科大学メディアラボの学長を務める伊藤穣一さんは、こうした変化が激しい時代を生きるうえで重要な点を七か条にまとめていますが、その一つが「地図ではなく、よいコンパスを持つこと」の推奨です。p085「情報社会のコンパス」

11)著者は伊藤穣一と角川インターネット講座15「ネットで進化する人類」 ビフォア/アフター・インターネットでコラボしている。伊藤や、ケヴィン・ケリーのような大木に育ってほしい期待の星である。  

12)著者についてはリアルタイムでの追っかけが終わってないし、この本も2年まえのモノであるので、もうすこし追及しなければならないが、どうも若いのに、周囲にこだわりすぎているように思う。伊藤穣一が若い時代に大学を拒否したり、ケヴィン・ケリーもまた若い時代にアジアを10年に渡ってバックパックしていたような、どこか超絶した孤独感、孤立感、独立性を持たないと、いずれ潰されてしまうのではないか。「ウェブ進化論」の梅田望夫などは、数冊の大ヒットの著書のあとは、杳として積極的に姿を消して行った。それもありだと思う。

13)文章を書くこととソフトウェアを書くことは共に「祈る」といいう点で似ています。「祈り」とは具体的には期待できないけれども「願う」こと、ではないでしょうか。文章を発表する場合は、読者がそこに内包されている情報を摂取した結果、新たな表現が生まれることを祈ります。p156「電脳のレリギオ」

14)この本、掴みはいいが、そして内容もまずまずだったとしても、結論としてはまだまだだ。少なくとも当ブログが期待しているようなコンシャスネスにダイレクトにつながっていく部分がまだまだ弱い。

15)狙いはいい。力がある。若さがある。今後にさらに期待。

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