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2017/02/22

さとりサマーディにて<13>添い寝

<12>からつづく

さとりサマーディにて

<13>添い寝  目次 

1)さとりサーマディに向かう車の中で、静かな了解が起こる。これでいいんじゃないかな。

2)病室に入ってみれば、静かに休んでいる。声をかけてその休みを妨げる必要もない。私も静かに椅子に座り瞑目する。

3)私はこの女性の三番目の子供だ。末っ子だったから、小学校が終わるまで一緒の布団で寝ていた。私の父である、彼女の夫は、長いこと療養施設に収容され、私は溺愛されていた、と言ってもいいのだろう。

4)あの頃を思い出す。姉兄はすでに小学生になり、家に残っているのは私だけだ。昼ご飯を食べてお昼寝をするときは、母が添い寝をしてくれた。農作業の汗臭さも、子供の私にとっては好ましいものだった。

5)彼女が眠ってしまい、私がまだ昼寝に入らない時など、ちょっと間だが、彼女の寝息を聞いていたものだ。決して等間隔ではなく、たまには無呼吸の瞬間もある。だが、概して、落ち着いた呼吸が続くのである。

6)いつしか目を覚ますと、もう午後も、少し太陽が西に傾き始めている時間であった。ふと我に返り、隣をまさぐると、さっきまでいたはずの母親の体はない。寂しくなり、私は泣く。

7)障子を開け、縁側まで歩き出て、泣く。「おかぁさ~~ん」。

8)そこには母親の姿はないが、広い農家屋敷の中のどこかで作業を、もう始めているのだ。そんな遠くには行っていない。私の声は届く。母親はやってきて、私の昼寝は終わるのだ。

9)今日、さとりサマーディを訪れ、ベットに横になっている彼女の寝息を聞いている間に、あの、昼寝をしていた時を思い出した。添い寝をしてくれているはずの母親のほうがすっかり寝入ってしまい、私はその寝息を聞いている。

10)でも、目を覚ますと、すでに彼女は午後の農作業を始めており、私は縁側から叫ぶ。すると、どこともなく、彼女はやってきて、午後の私の生活も始まるのだ。

11)医師の診断は、いつ突然死が起きてもおかしくない段階だという。今はかろうじて介助つきで食事はしているが、やがては鼻から栄養素を供給するとか、胃婁という手段で生命を維持しなければならない段階は近づいているという。

12)私は、彼女の寝息を聞きながら瞑目した。いくつかの了解事項が並んだ。おそらく、私が深いサマーディに入ろうとしている間に、彼女は姿を消してしまうに違いない。

13)しかし、私はきっとその時「おかぁさ~~ん」と呼ぶだろう。そして、彼女はやってくるのだ。

14)今回、病院のさとりサマーディにいて、添い寝してあげていると思っている末っ子の私は、まだ勘違いしているようだ。添い寝してしてもらっているのは、やっぱり私のほうなのだ。

15)ふと目が覚め、寂しくなって、「おかあさ~~ん」と叫べば、「あら、目が覚めたの?」と、彼女はやってくるだろう。姿を見失っているのは私のほうで、彼女はもうすでに昼過ぎの仕事に取り掛かっているのだ。

<14>につづく

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