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2017/02/21

さとりサマーディにて<12>さとりサマーディについて

<11>からつづく

さとりサマーディにて

<12>さとりサーマディについて   目次 

1)さとりとは母親の名前である。母はその名前を気に入っているのかどうか、定かではなかった。何事について自分の父親に対する敬意はすこぶる大きかったので、親がつけてくれた名前だ、というだけで、それ以上のものはなく、基本満足していたはずである。

2)しかるに、自らの名前を仏教や宗教と結びつけて語られることは、あまり好みではなかったようだ。内心は喜んでいたのかもしれないが、そういうことについて大っぴらに語られることが好きではなかったのかもしれない。

3)自らは、その名前の意味を問われると、「作を取る」から「さとり」なのだ、と答えていた。農家の長女に生まれ、農家の家督に嫁ぎ、その亭主を病気で失ったあとは、ひたすら三人の子供を養育するために働きづめに働いた人だっただけに、農業を職業として、「作物」を「取る」ことこそ我が人生、つまり「さとり」なのだ、と説明していた。

4)そんな真摯一途な彼女を、近隣の口の悪い村人たちは、今日もさとりさんが「くさとり」をしている、と笑った。

5)この名前を付けた彼女の父、つまり祖父にだいぶ前、私が二十歳を過ぎたころに聞いたことがある。あの名前の意味はどういう意味なのですか。彼は答えた。もちろん「悟り」という意味だよ。若い時分から近所のお寺で坐禅を組んで仏教を学んでいた。長女が生まれて、冬の農閑期に、和紙漉きの仕事をしながら、考えた名前だよ。

6)サマーディとは、三昧ということだ。つまりすっかりその世界に浸りきっていること。昔、中華三昧という高価ラーメンがあったが、それだけ一般化している名前ではあろう。

7)OSHOのメモリアルホールもサマーディと呼ばれている。

8)さとりさんを若い時分から知っている私の友人が、最近彼女はどうしてますか、と聞いてきた。こういうわけで今はホームにいるよ。へぇ~、それならお元気なうちにお会いしてみたいですね。覚えていますかね。もちろん覚えているよ。物覚えはすこぶるいいよ。

9)で、二人の間では、そのホームに横たわるさとりさんのいる空間はサマーディと呼ぶことになり、さとりサマーディができあがった。

10)そのさとりさんが、この一週間、体調がすぐれない。あまりにリハビリ効果があって、元気いっぱい、という時期があったのだが、その元気があまり過ぎて、夜中にベットから落ち、体を痛めた。

11)それをきっかけに向かいの病院に入院し、痛み止めが効いたのはいいが、どうも効きすぎたみたいで、意識がもうろうとし始めた。

12)緊急車両で、近くの脳外科専門の大病院でMRIなどの検査を受けたが、脳にまつわることに関しては健全であるという。

13)満で95歳を過ぎていれば、長寿の部類であるし、いつお迎えが来てもおかしくはない。

14)この数日は、どうも反応が鈍い。健やかな寝息は立てるが、こちらの声が聞こえているのかどうか、定かではない。そもそも両目はすでに白内障を通り越して失明しており、耳も片耳だけはなんとか聞こえていそうではあった。

15)彼女のホームや病室の椅子に座って、瞑目する。さまざまな障害があるので、そうそう長時間瞑想していることなどできないが、それでも、彼女を思い目を閉じると、それはそれで、私を深い瞑想空間へといざなう。

16)そのことを、私(たち)は最近、さとりサマーディと名づけているのである。

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<13>につづく

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