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2017/03/24

「シンギュラリティ」人工知能から超知能へ マレー・シャナハン著 ドミニク・チェン監訳<1>

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「シンギュラリティ」人工知能から超知能へ<1>
マレー・シャナハン著 ドミニク・チェン監訳 2016/01 エヌティティ出版 単行本(ソフトカバー): 268ページ
No.3920

1)SFは今でもインスピレーションの源であり、重要な哲学的概念を探るための素材でもある。しかし、SFが探求するアイデアに対してはより深い処理を行われなければいけない。知的な刺激を伴うとは言え、SFの第一目的は娯楽であり、思考のガイドに使うのは誤りだろう。pi「まえがき」シャナハン

2)シンギュラリティ関連にはある程度目を通したが、同じストーリーを何回も読ませられることと、そもそもその発展プロセスや研究プロセスに直接タッチできない立場であるために、いい加減飽きてしまっていることになる。この本についても、もういいかなぁ、という気分ではある。

3)しかし、これはドミニク・チェンが関与(監訳)している一冊なので、まずは目を通しておこう、という程度の期待値であった。

4)もし人間レベルのAIから超知能への移行が不可避であるなら、その人工知能の基本的な動機と価値観を確実に受け継がせることは良い考えだと言えるだろう。これらの価値観の中には、知的好奇心や、創造、探求、改善、進歩することへの動因も含まれるかもしれない。 

 だがおそらく、他のどの価値よりもまず先んじて教え込まれなければならないものは、他者、そしてすべての感情ある存在に対して向けられる、仏教が説くところの慈悲の心だろう。 

 人間の数々の欠点----好戦的志向、不平等を永続化する傾向、ときおり発揮する残虐性----にもかかわらず、豊かな時代にはこれらの価値は充分、前面化するように思われる。 

 このように、AIが人間的であればあるほど人間と同じ価値観を体現することが期待され、そして人類は、無意味で下等な存在とみなさえるような暗黒の未来ではなく、人間の価値と尊厳が保たれるユートピア的な未来へと進める期待が高まるだろう。p143「AIと意識」 シャナハン

5)科学者や専門家的にシンギュラリティを追いかけるというのはすでに無理で、あるいはSFファン的にも興味を持ち続けることは好みではない。敢えていうなら、こちらが期待しているような着地に近いような道筋がでてきて、ようやく、やれやれとめくるスピードを下げて、熟読してみたりする。

6)意識の「ハードプログレム」とは、(もう一人の哲学者、トーマス・ネーゲルの表現を借りれば)「意識を持つ生物であるとはどのようなことか、なぜそのようであるのか」ということを、科学の言葉で説明しようとする試みである。

 なぜわれわれには主観的な感覚と感情があるのだろうか? 私は今、電車の窓から過ぎていくイングランドの霧がかった田園風景を見ているという主観的な視覚経験は、いかにして私の脳内で発生するのか?

 この問題の難しさは、私が同乗者を見たときに生じるある懐疑的な考えに由来している。彼らがいかに振る舞い行動しようとも、たとえ物思わしげに風景を眺め、その美しさについて語っていようとも、その実、彼らは何も体験していないと推察することは、少なくとも論理的には可能なことである。

 私には彼らの個人的内面世界に立ち入ることはできない以上、そもそも彼らにもそれが備わっているとどうして確信することができようか? ひょっとすると彼らは単なるゾンビ、オートマトンなのかもしれない。p147同上 シャナハン

7)オートマン、とは自動人間、という意味だそうだ。

8)意識ある人間レベルのAIの見通しはさまざまな問題を提起するが、意識ある超知能の場合、その影響はさらに大きいだろう。p202「天国か地獄か」 シャナハン

9)保守的な人間中心主義と、ポストヒューマン原理主義との間に、妥協点はあるのだろうか? p210同上 シャナハン

10)正直言って、科学の行く末としてのシンギュラリティへの関心を持ち続けることはかなり苦痛である。その研究手段を持っていないばかりか、それを現実的に自らが確信をもって実証できないところにその原因がある。だが、その「成果」については、一般的以上に関心を持つ続けているのは確かなことだ。

11)この本の翻訳については三人のチャンが参画している。父親と二人の子供、であろう。ドミニク・チェンは、子供、しかもその弟のほうであるようだ。最終的にはドミニク・チェンの名前になっている限り、この本は、彼の「翻訳」チームによる仕事と考えていいだろう。

12)情報技術産業で活動をしていると、「エモーション」や「マインドフルネス」という言葉が重宝される場面に遭遇することが多い。情報技術もインターネットとスマートフォンが全世界に普及する時代に入ってある程度成熟してきており、その新奇性に注目が集まるフェーズから、いかに人間性と整合するように設計できるかという段階に入ってきている。

 その過程で、比較的定量化が容易な目標設定に拠ってきた工学の領域が、いよいよ人間的な価値を模索しはじめるようになってきたとも言える。p261「訳者あとがき」ドミニク・チェン

13)当ブログがドミンク・チェンに注目しているのは、まずはその若さ。1981年生まれ、まだ36歳の新進気鋭の学者(経営者)であるということ。そして、その若さに載せて、シンギュラリティとマインドフルネスという単語を、自由闊達に使い切っているように見えるからである。

14)人工知能(artificial inteligence)という言葉は、二重の意味を投げかけている。知能を人工的に再構築できるのか、という問いと、そもそも知能とはいったい何なのか、という問いである。 

 人間の知能の全容がまだ解明されていないのにもかかわらず、その機械的な再構築を試みようとする過程を通して、逆に人間の知能とは何かということが浮き彫りになってきている。p257「訳者あとがき」ドミニク・チェン

15)当ブログのタイトルは「地球人スピリット・ジャーナル」であり、サブタイトルは「意識と瞑想をめぐる読書ブログ」である。意識については、最終結論はOSHOに依拠しているとして、そこまでにたどり着くプロセスにおいては、これまでの各世界の各界の精神史、並びに最近のシンギュラリティ進化に多いに期待しているところである。

16)また、瞑想については、さまざまな呼び名はあるが、最近のマインドフルネスという呼び名をあえて可としている。せっかく盛り上がってきているウェーブに、あえて茶々を入れることをせずに、積極的に関与してみようという態度である。

17)したがって、当ブログにおける「意識と瞑想」という場合、現在進行形としては「シンギュラリティとマインドフルネス」と読み直しても、かまわない。「シンギュラリティとマインドフルネスをめぐる読書ブログ」でいい。

18)しかし、残念ながらこの二つをバランスよく配合することはなかなか難しい。グッドバランスで紹介してくれる人も少ない。敢えて、当ブログがこの訳者ドミニク・チェンに注目するのは、この人がこの二つのバランスを合わせて持ったニュースター足り得ると認識しているからだ。

19)先端科学にも疎く、最新のマインドフルネスの情報にも疎い当ブログとしては、個別にそれらを追っかけていくよりも、ドミニク・チェン、その人を注目していたほうが、より早く、効果的であるような気さえしている。

20)人工知能を考えることは、すでに私たちの生活に浸透しているさまざまな情報技術を観察することからも可能だ。私たちのネット上の社会生活を支える現行のウェブサービスやアプリの多くの機能が、人工知能が依拠する機械学習を用いている。

 本書で展開される未知の知性の創発に向けた知能冒険の開始点はすでに私たちの生活のなかに散りばめている。

 監訳者としては、人工知能に代表される現代の情報技術に対して危惧の念を抱くのではなく、むしろ積極的にそのよりよい更新へと読者の想像力が刺激され、専門家以外の堅実な議論が活性化することを願う。p263「訳者あとがき」ドミニク・チェン

21)はてさて、紹介者として の彼に一存するとして、「専門家以外」の当ブログとして、彼が提唱する「積極的な議論」に参加できるだろうか。「読書ブログ」というレベルでは、かなり方向が違うかな、とも思う。されど、その「活性化」を期待しつつ、その素地を醸成するかもしれない一旦を担おうとする姿勢は、まずは許されるのではないか、と願うものである。

<2>につづく

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