「棺一基」 大道寺将司全句集<2>
<1>からつづく
「棺一基」 大道寺将司全句集 <2>
大道寺将司 (著), 辺見庸(序文・跋文) (著) 2012/04 太田出版 単行本: 234ページ
★★★★★
1)著者には少なくとも3冊の著書があるようだ。しかも句集としては、この「全句集」の3年後に「残(のこん)の月」が出ており、本当に晩年の句を探すとするならば、後者をまずは読むべきであろう。またその後者の句集がでた二年後に病没したとしたら、いわゆる辞世の句なるものは、まだ発表されておらず、これから出る新たな句集に含まれているのかもしれない。
2)それでも、当ブログとしては、栄えある4000冊目に選出したかぎり、この「棺一基 四顧茫々と 霞みたり」(2007年)を、第一句として記録しておきたい。
3)というのも、個別的にこの句人を追いかけているわけではなく。当ブログ10数年の歩みの中で、「ウェブ進化論」から始まって、「松岡正剛 千夜千冊」 、Osho「The Zen Manifesto; Freedom from Oneself 」 、Osho「THIS, THIS: A Thousand Times This」 、木田元他「精神の哲学・肉体の哲学」、DVD「メイキング・オブ・ジュラシック・パーク」 、そして、ゲーリー・スナイダー「For the Children」 を通り越して、ようやくこの句集にたどり着いたとするならば、その著者のライフスタイルや人生、感慨というより、俳句という表現形態に、極めて納得するものがあったのだろう。
4)棺一基。人、いずれは死ぬということで言えば、確かに棺一基に向けての道筋でしかない。そして、たくさんの人々や、出来事、学びや出会いの数々があったとして、自己という敷居に居る限り、煎じ詰めれば、たとえ話とは言え、独房に入っているのと、似ていないこともない。
5)四顧。四顧とは周囲のことである。おそらく、四方の他に、上とか下とか、すべてがまるで霞んでいるに違いないのだ。人生そのものが、よくよく考えてみれば、まさにその通りである。茫々と霞んでいるのである。
6)されど、そのことを、たった17文字で表すのは難しい。この句人にしてこの句あり。この句人がいてこそ、この句の意味が際立ってくるにしても、どの人生、どの人においても、本来、「棺一基 四顧茫々と 霞みたり」であるのではないだろうか。
7)この方は、刑死とならず病死となったらしい。そこまでの数十年の日々、この世において、どのような人生を送ったのか。残された句からその日々を推測することは可能である。されど、壁の外にいる私たちにしても、もし日々煮詰めた人生を送るとするならば、一句、一句に純化された感慨が記録されていくに違いない。
8)当ブログ4000冊目にして、当ブログはこの一句に出会った。それはこの句集に集められた1500の、一句一句を味わうことに目的はない。むしろ、その長き独房の日々を一句に込める凝縮力、その力をこそ学びたい。
9)そして、おお、この句こそは、という一句が吐けたら、当ブログとしては、本望のほとんどが叶えられた、ということができるであろう。
10)「棺一基 四顧茫々と 霞みたり」 詠み人があればこそ、この句の真の意味が立ち上がってくるとは言え、詠み人知らずとして、意味を勝手に自由に解釈するとするならば、この句は、誰にでも当てはまる、人生のエッセンスなのではないだろうか。
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