「棺一基」 大道寺将司全句集<3>
<2>からつづく
「棺一基」 大道寺将司全句集 <3>
大道寺将司 (著), 辺見庸(序文・跋文) (著) 2012/04 太田出版 単行本: 234ページ
★★★★★
1)句は、この本においては1996年に始まり、2012年に終わっている。独房における孤独な感慨が連綿と続くが、病舎に移された直後に、彼もまた3・11を体感する。
揺れ動く壁鳴りやまぬ浅き春
数知らぬ人呑み込みし春の海
瓦礫選る女濡らして島帰る
斑雪人を助けし死者の辺に
加害者となる被爆地の凍返る
”ありがと”と亡き母に女児辛蝦夷咲く
暮れ残る桜の下の津波後
地震止まず看護師の声裏返る p173~4
2)著者は、病舎の壁や看護婦以外、3・11のことについて、どのようにして知り得たのであろうか。自分の足で現地に行ったのではないことが確かである限り、それはおそrかう新聞やラジオ、テレビ(もしそれが許されているのなら)で知り得たことであろう。
3)そしてまた、被災地にあって、後日、自らの足で、自転車で、クルマで、何度か現地と通り過ぎたとは言え、波ひとつ私は目撃はしていないのだ。地震とて、「揺れ動く壁」などは体験していない。新築の耐震ビルに、守られていた。揺れたのはせいぜい、壁に付けてあったアコーディオンカーテンくらいだった。
4)情報を、メディアと通じて得ていた、という意味では、彼と同じような3・11の体験をしているのである。逆に言えば、3・11に限らず、一般家庭生活と、独房と、それぞれの境遇は違っていても、時代を体験する、ということは、それほど大きな違いはないのかもしれない。
つづく
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