「残の月」 大道寺将司句集
「残の月」 大道寺将司句集
大道寺 将司 (著), 福島 泰樹 (著) 2015/11 太田出版 単行本: 176ページ
No.4009★★★★☆
1)
「棺一基」から三年
隔絶された病舎で
癌と闘いながら詠んだ四百九十句
十七文字に刻まれた
加害の記憶と悔悟、獄中からの観照 表紙帯
2)「残の月」と書いて、のこんのつき、 と読む。
「縮みゆく残の月の明日知らず」 大道寺将司 2014年 p134
3)前句集「棺一基」をめくっていて、ふと思った。
「棺一基 四顧茫々と 霞けり」 2007年 大道寺将司 2017/05/24 没 享年70歳
境遇とか、ご本人の真意などまったく無視して、もし私がこの句をつくるとするなら、
「霞てし 四顧茫々と 棺一基」 把不住
とするのでないだろうか。文法はまずは無視するとして、棺がひとつあって、廻りが茫々としている、というより、周囲が茫々としていても、確実なのは棺一つである、と考えた方が、よりわが心境に近い。
4)棺とは、もちろん死を意味するわけだが、象徴としての棺であっても、実際は、棺にさえ入れてもらえない人もたくさんいたのだ。自らの死を「棺」と象徴させることができるのは、ある意味、幸せなことなのではないだろうか。
5)この句集の第一句は
「凍みる地に撒かれしままの放射能」 大道寺将司 2012年 p6
で始まる。獄中の独房にあって、隔絶の世界にいるようにも思うが、実際はニュース源としては新聞や書籍、ラジオ、手紙などを通して、私たちの塀の外にいる人間と、それほど変わらない環境にあるのかもしれない。
6)もちろん、ネットは使えないだろうし、電話、あるいはクルマなどを使って現地に行くことなどはできないだろう。しかし、今、この句集にあたっていると、塀の内外をそれほど意識しなくても良いのではないか、とさえ、思ってしまう。
7)「縮みゆく残の月の明日知らず」 この句もまた、獄中の孤独だけが生み出しうる句ではないのではないか。病舎にいて、日々闘病のベットにいる身なら、その感は、一層厳しいものではあるだろうが、詠み人知らずとして淡々と読み下すなら、これは、誰にでもある句境ではなかろうか。ましてや、アラ還超えの私など、実に当たり前だとさえいえる。
8)この句集には2012年かr2015年までの4年間の句500句が編集されている。前句集と合わせて、2000。その一句一句が著者の日々の記録だとして、その一期を一句にまとめる、ということは、不可能ではない、と、まずは想定してみる。
9)この句集の後の二年間。著者はどんな句を残していたのだろう。
10)「千の句を 散らして逝きし 五月かな」 把不住
つづく
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