「中島誠之助先生、日本の美について教えてください。」<2>
<1>からつづく
「中島誠之助先生、日本の美について教えてください。」 <2>
中島誠之助 (著) 2017/04 祥伝社 単行本: 256ページ
★★★★★
1)何千年ものあいだ、日本人は植物というものの生命力に身も心もゆだねてきたんじゃないですか。日本人の日常の生活、衣食住に対しての感性の根源がある。そこに不思議な力が宿ると考えられたものが、神なんでしょうね。
ただ一本の木があって、あるいは森というものがあれば、その空間が神の宿る場になるわけです。神は木霊(こだま)であって見えません。形がない。
ですから日本の神社っていうものは、空間なわけですね。多くは森であって、飲本の木であって、その植物の力にいだかれるようにして、やがて石に神が宿る、あるいはもっと人間らしく建物をつくって神をお迎えしようとなっていったのでしょう。p108「木の文化」
2)西行しかり、芭蕉しかり、先人たちの築きあ げた文化や思考の跡をもう一度実感しながら、噛みしめながら旅を続けていくというのが、一般的な日本人の旅人の姿なんですよね。再確認の過程に新たな発見があるんですよ。p174「日本人の旅のやり方」
3)「鑑定品に値段をつける番組に出ているくせに何なんだ」とおっしゃるかもしれないけれど、あれは美術や歴史をテーマにしたエンターテイメントなんです。だから面白おかしくつくってあるわけなんです。
ものの向こうに見える持ち主の人間ドラマなんであって、美とは何かを追及する教養番組ではありませんよ。心の余裕のある人が笑って楽しむものなんです。p202「売るといくらくらいしますか」
4)東北地方に残されているみ仏たちもそうですが、いずれも部材を寄せたものではなく、一木でつくられたものです。クスノキとか、ケヤキとか、あるいはカヤやサクラの木でつくられたものもあります。
もとは霊木だったんでしょうね。み仏の姿をこの特別な木にノミで彫り出していくんです。道ばたの石も拝めば信心になるとは言いますが、素材の段階から拝まれる対象だったわけです。p234「金剛仏から木彫仏へ」
5)あんまりマニアックになっちゃいけないんですね。人間ってものはね、ともすればマニアックになりがちなもんですが、昔はそれでよかったですよ。見るからにあの人はお医者さんだ、あの人は絵描きだ、あの人は骨董屋だ、あの人は見るからに物好きな収集家だとかって。
だけどいまは見るからにそういう職業だっていう人、いないんじゃないですか。
ですからね、私の和装もテレビ用の衣装なんです。家にいるときも、近所を歩くときも洋服ですよ。書斎も洋室ですしね、自分ひとりかしこまってお茶を点てて、すすっているなんて日常生活はしたことないんです。ヒマさえあれば、趣味の登山をしてますしね。
がっかりされた方、ごめんなさいね。p245「完成を高めるには、何をすればいいんでしょうか。」
6)エンターテイメントであれ、演技であれ、この人の本は、最初から最後まで読ませる力がある。それは柔らかい語り言葉で綴られているからだ。「そうですねえ」というような、彼独特の口調がそのまま展開されている。そこがいいのだろう。
7)それと、保守本流というか、日本文化の主流を決して見逃していない。あちこち傍流に色目を使いながら、キチンと合流地点へと流れていく。もちろん、時には反語的に、疑問を呈したり、否定をしたりする。だが、そこにキツさがない。柔らかく、聞く者の耳を潤す。
8)学者さんの全うな学説には、それなりの正当性があり、かしこまって傾聴すべき知識が詰まっているのだろうが、自分にとっては不要なこともかなり多い。ところがこの人の言葉には隙間は多いが、聞く人にとって、柔らかく自ら考える余地を与えてくれる優しさがある。
9)中島誠之助センセイ。力道山やタイガーマスクに通じる、正当なエンタテイメントである。それもこれも、実力と努力あってのことである。
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