「謎床: 思考が発酵する編集術」松岡正剛& ドミニク・チェン <2>
「謎床: 思考が発酵する編集術」
松岡 正剛 (著), ドミニク・チェン (著), 2017/07 晶文社 単行本: 358ページ
★★★★★
1)昨晩サラっと目を通し、今朝になって秀麓禅齋での日曜坐禅会にでかけ、帰宅後、午前中のまどろみの中で、再読した。思ったほど難解ではなく、簡単に頁をめくることができた。斜め読みした時と印象はほとんど同じだった。むしろ、もう再読しなくてもいいな、と思えた分だけ、今朝のほうが評価が下がった。
2)私がここ最近抱えていて、松岡さんとの対話でぶつけたいと考えていた問題意識を一つのフレーズに凝縮すれば、それは「日本とは何か」という短い問いになる。p5ドミニク「はじめに」
3)当ブログが敢えて「日本とは何か」を問うなら、敢えてセイゴオ親分を選んだりはしないだろう。この問いをドミニクが親分に問う、という図式が、この書と、二人を決定的に、固定化してしまっている。
4)天井が吹き抜けた倉庫のような空間に、松岡さんの蔵書が約二万冊配架されている本棚が壁面や柱に埋め込まれているこの接客空間は、あたかも異次元への入口さながらの空気を醸している。
まるで映画「インターステラー」の終盤で主人公クーパーがブラックホールの中の特異点を超えて迷い込む四次元の超立方体のように、過去から現在に至る松岡さんの関心を滋養してきた無数の書物の毛かいを浴びているだけで、知の母胎のようなものと臍の緒で接続しているような感覚を覚える。p11ドミニク同上
5)二万冊の本が、いつの間にか「無数」になってしまうのはお愛嬌だが、それに匹敵する容量があるかもしれないと自負し、他者にも自慢するのはドミニクのPCだ。どのように保存されているか、何が保存されているかはここで問わないとして、「知」を本棚に並べて「自慢」する時代は終わっていると思う。少なくとも私はドミニクのスタイルに軍配を上げる。
6)我が家にも確かに数千冊の蔵書があり、雑誌や資料、会報の類を加えれば、桁が一つ上がろうというものだが、やはりそれだけの空間性がないと、整理がつかなくなる。当ブログではすでに、この書が4161冊目で、たしかに親分の蔵書には及ばないが、活用の仕方、という意味では、なかなか使い勝手がよい。いつでも「取り出して」「自分なり」に活用できる。私は私流のこの秘伝「謎床」を大いに活用している。
7)マインドフルネスやウェルビーイングという言葉が流行していますが、それらは、たとえばスティーブ・ジョブズはじめ欧米の文化人たちが、鈴木大拙がかの地で展開した禅を継承していて、それが日本に逆輸入されてきたものですよね。
現代の日本人は、マインドフルネスのほうをありがたがっていますが、オリジンは日本や中国やインドにあるわけです。もともとは自分たちが持っていたものがルーツにある。p115「日本型ポジティブ・コンピューティングをつくる--寄物陳思メソッド」
8)まぁ、その通りだが、決して「日本人」全部が「ありがたがって」いるわけじゃないよ。雑誌「大法輪」のマインドフルネス特集(2017/04)などを見ると、かなりの抵抗感があり、反論もされている。
9)私はあのSecond Lifeの失敗からすると、ゲームのほうがいいのだろうと思っています。松岡p139「ゲーム脳とは何か--嫁は二次元でいい?」
10)ははは、やはりSLの「失敗」は親分も認めているだね。「セコンドライフマガジン」創刊号(2007/12 インプレスR&D) における親分のインタビュー記事など、今となってはお笑いだが、この「編集工学屋」さんの言説には、その辺セールスマンの舌先三寸とそれほど変わらないのだ、とキモに銘じておく。眉唾。くわばらくわばら。あれ以前から常に、当ブログが親分に一定程度以上の距離を置いているのは、そのためだ。
11)IT業界でいえば、Googleが禅を取り入れたということが最先端の情報として入ってくる。あるいはマインドフルネスという語についてアメリカの医学界で用語定義され、よし今度はマインドフルネスを最大化するシステムをつくろうとおいう話になっていて、日本はかえってそこに後れを取っている感じがするんです。
最初から身近にあるのに、欧米から流れてくることによって目新しく感じて取り入れようとしている。p153ドミニク
12)おそらく、ネイティブ・デジタルな方向にやや傾きつつある(例えば出版社サンガなど)集団性においては、そうかもしれないが、この傾向はずっと昔から続いている。別段に今始まったわけではなく、「グーグルのマインドフルネス革命」(2015/05サンガ編集部)などは、読む人が読めば、お恥ずかしい限りの一冊である。シリコンバレーなどの現地レポートとして読む分にはかまわないが。
13)次に来ると言われているカーツワイルのシンギュラリティは人間の心にどのような変化をもたらすのか。p198ドミニク「シンギュラリティは人間の『心』にどのような変化をもたらすのか」
14)ここは当ブログでもスタート時点からすでに10年間以上追いかけているテーマではあるが、結局この対談している二人にも明確な答えをだせるわけではない。結局ケヴィン・ケリーが「<インターネット>の次に来るもの」(2016/07 NHK出版)で言っているように、積極的に新技術と取り組んでいって、結果を待つしかないようである。
15)先日サンフランシスコ禅センターを訪問しました。(中略)そこで70歳近い指導者の女性に出会ったのです。(中略)殺菌、Googleを筆頭にシリコンバレーの企業の中では、マインドフルネスというコトがで瞑想が紹介され、奨励されているのですが、そうした流れについてどう思いますかと彼女に質問しました。
すると彼女は「自分は現代の人たちが、そうしたものを、どのような形であれ求めているということについて、そのこと自体を判断しない」と言った。
「ただ、企業がそうしたものを活用するというとき、そこでひとつ大きな履き違いをしている。彼らは瞑想を何かをアチーブするためのものだと思っているだろう。
しかし、私が30年のあいだここで学んだことは、坐禅という経験を通して、何も追及しない、ただたゆたうということだ」とも付け加えたんですね。
そして、坐禅にはどこかにゴールがあるわけではなく、とにかく続けるという動きの中でしか自分にとっての意味は生まれないし、それは他人に共有するストーリのようなものでもないと強く言われて、非常にはっとさせられました。p276ドミニク「なぜ、集団はアチーブメントを求めるようになるのか」
16)道元がいうことく、そもそも坐禅は安楽の法門であってみれば、そんなことは30歳代後半のドミニクと言え、知らないわけはないだろう。ただ、この切り取り方は上手である。
17)松岡 (前略)マインドフルネスなアプローチが、グローバルスターンダードをめざしてシンプルになっているというのはダメだろうと思います。マインドフルネスなものこそ、先ほどの粘菌類的な多様性を各フェーズごとに見せながら変化していくような、何かの複雑性を含む必要がある。
そもそもはそうしたものをいろいろと取り揃えていたはずなんです。それらをもういちど取り出してダイナミックに編集することで、多様な集団的意識や無意識を生み出していけますよ。でも宗教者たちだってあまりにも怠慢なのか、何もしていない。
ドミニク そのことは「空海の夢」にも書かれていましたね。というこおとは、それから30年のあいだには何も革手いないわけですね。
松岡 うーん、かえってひどくなっている。坊主まるもうけじゃいけません(笑)。p279 同上
18)松岡著「空海の海」がこの本の底本になっているわけだが、当ブログでは未読であり、また、今後読みこむ予定はない。それぞれの宗教家たちだって、何事もしていないわけじゃない。巨視的に見れば、ブッダの仏教が賞味期限をきたしているだけだ、と考えるとつじつまがあう。
19)ブロックチェーンの頑健性は、台帳のクローンが多数存在し、取引が行われるごとにそれらが一斉に書き換えられ、しかも書き換えには計算コストがかかるということに依拠しています。
このシステムを使えば、公証制度かあ著作権や特許までもユニバーサルに、特定の国家のインフラを経由せずに構築できると考えることができます。p290「国家とネット」
20)最先端におられるべき才気あふれるお二方にとっても、けっして未来が明確に見えているわけでもなく、情報を独占しているわけでもない。この辺は同時代性を確認しておけば、それですむ。
21)私(松岡)がいまいちど考えたいを思うのは、実はこの図式の裏側にあるものがあるんです。それは何かというと、言語の裏側にあるのが「神」と「意識・無意識」、機械の裏側にあるのが「エロス」と「死」です。p293 松岡 「言語と機械--資本と市場が届かない場所」
22)こういう言説にぶち当たるにつけ、OSHOが面前で3年半の沈黙の時代を持ったということの凄さを再認識することになる。
23)この本は2017年夏に出版されたものだが、対談そのものは2016年後半から2017年前半に、三日間の日をとって行われたものとみられる。やや時間のズレがある。この対談の間、松岡は肺がんが見つかり、手術などを行っていたようだ。
24)この本、最初はかなりのネタ本になるかな、と期待したが、速読してみれば、わりと読みやすく、それほどの差異を感じない。これはこれでいいのだろう。近いうちの再再読は必要なさそうである。
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